ニューロフィードバック:あなたの脳を最適化する技術

ニューロフィードバック:あなたの脳を最適化する技術

現代社会では、脳の健康がわたしたちの生活の質に大きく影響を及ぼしています。仕事をしていてもすぐに集中が途切れてしまったり、ストレスでなんとなく不安を感じたり、最近あまりよく眠れないと感じたりするのは、脳の働きが低下しているからかもしれません。このような脳の働きの低下を解決する方法はさまざまに考えられていますが、今日のコラムでは、その内の1つであるニューロフィードバックをご紹介します。
ニューロフィードバックは、自分の脳の活動をリアルタイムに計測して、その脳信号を見たり聞いたりできる情報に変換して自分にフィードバックすることによって、脳の働きを意識的に最適化しようとする技術です。そんなSFのようなことができるのでしょうか?

ニューロフィードバックって何?

私たちは、普段、自分の脳がどのように働いているかを感じることはできませんし、あまり意識することもありませんので、自分の脳を最適化するなんて言うと、突拍子もないことに聞こえます。ですが、あなたの脳の状態を自分の目で見たり、耳で聞いたりとモニタリングできるとすればどうでしょうか?スポーツをされる方や楽器を演奏する方は、自分のフォームをビデオで撮影したり、自分の演奏を録音したりして、自分の動きがおかしいところや音がおかしいところを確認しながら練習してうまくできるようになったという経験があるのではないでしょうか。
このように自分の状態を見える形、聞こえる形にしてモニタリングすると、うまくコントロールしながら学習していくことができます。自分の脳の状態も撮影したり、録音したりするようにモニタリングすることができれば、自分の脳をコントロールすることを学習し、脳の働きを最適な状態にできるはずです。

ニューロフィードバックは、脳活動をモニタリングし、自分で特定の活動パターンを強めたり、弱めたりすることで脳機能を調整する一種のトレーニング方法です。ニューロフィードバックには脳活動を計測するツールを使います。脳活動計測ツールには、脳波計やfMRI(機能的磁気共鳴画像法)などさまざまなものがありますが、大がかりな装置を必要としないことから脳波計がよく用いられます。ここでは、脳波計を用いたニューロフィードバックの方法を説明します。まず、頭皮に小さなセンサーを取り付け、脳波を計測します。この計測された脳波データはコンピュータに送られリアルタイムに分析されます。分析された脳波の活動パターンは、文字や画像、音などの視覚的または聴覚的な情報でフィードバックされます。例えば、脳波の活動が目標の状態に達したらモニタに表示された得点が増えたり、ピンポンなどの正解音がなるなどのポジティブなフィードバックが返されます。すると、脳は、その目標となる望ましい脳の状態を学習し、結果として、脳の働きの向上がみられるというものです。
具体的に、どのような事例があるのか先行研究をいくつか見ていきましょう。

ニューロフィードバックの研究

注意欠陥・多動性障害(ADHD)は、注意力の欠如、衝動性、活動過多などの症状を特徴とする発達障害の1つです。ADHDを持つ子どもたちがニューロフィードバックトレーニングを行ない、その有効性を調べた研究は膨大な数に上ります。それらの研究をメタ分析という方法で整理し比較した論文では、ニューロフィードバックが、ADHD患児の注意力や集中力の向上、衝動性の低下に有効であることが報告されています(1)。1つの研究(2)を例に挙げると、ADHD患児に12Hzから15Hzのリズムをもった脳波(Sensorimotor Rhythm(SMR)と名づけられています)がたくさん出るようなニューロフィードバックトレーニングを3ヶ月間行なうと、注意の持続力を測るテストの成績が向上したことが報告されています。この効果は、薬物療法を行なっていたADHD患児の成績向上と同じくらい効果があったということです。

Mennellaらによる研究(3)は、ニューロフィードバックが不安を減らすといった感情の調整に有効であることを示しています。この研究では、健康な大学生を対象にして、前頭部の8Hzから13Hzのリズムをもつアルファ波の左右のバランスを調整するようなニューロフィードバックを5回行なっています。ポジティブな感情の時には、左前頭部と比較して、右前頭部のアルファ波が増え、逆に、ネガティブな感情の時には、右前頭部と比較して、左前頭部のアルファ波が増えることが知られていますので(4)、それを利用して、右前頭部のアルファ波が増えるようなニューロフィードバックトレーニングをしたわけです。ニューロフィードバックトレーニングの結果、残念ながら、よりポジティブになるというところまではいきませんでしたが、不安を感じるといったネガティブな感情が減る効果があることが分かりました。

ニューロフィードバックによって寝付きがよくなったことを示す研究もあります(5)。多くの睡眠研究で、夜ベッドに入り眠りにつく際には、眠り始めるために先ほども出てきたSMRという脳波が重要であるということが知られています。この研究では、参加者は10日間にわたって、このSMRがたくさん出るようなニューロフィードバックトレーニングを行なっています。その結果、参加者はSMRが増えるような調整ができるようになり、実際に眠りに入るまでの時間も短くなった、つまり寝付きがよくなったということです。

ニューロフィードバックのメリットは?

ニューロフィードバックは、ADHD、不安障害、睡眠障害などさまざまな障害の治療に役立つことが期待されています。また、日常生活の不安を減らしたり、よい眠りをとれるようにするといった健康な人々の生活の質を向上させるためにも利用することが可能です。この技術の大きなメリットは、薬物を用いることなく、脳の自己調整能力を高めることができる点にあります。また、トレーニング方法も個々人に合わせてカスタマイズが可能です。例えば、紹介したADHD患児のニューロフィードバックの研究では、脳波が目標の状態に達した時だけ、パックマンが速く移動してえさを食べるといったようなゲームで遊ぶ感覚でトレーニングをしています。脳波が目標の状態に達したら心地よい音楽が流れるというトレーニングもよいかもしれません。このように、ビデオゲームのプレイや音楽の聴取など楽しみながら、望ましい脳の状態を作りだす方法を身につけることができるところもメリットと言えるでしょう。

まとめ

ニューロフィードバックは、わたしたちの脳の健康を向上させるための革新的な技術です。科学的根拠に基づいたこの技術は、集中力の向上、ストレスの軽減、睡眠の質の向上など日常生活の質を高めるために有効です。今後もニューロフィードバックの科学的検討が進んでいくと思われますが、自分自身の脳をより効率的に最適化できるような技術へ発展することを願っています。

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引用文献

  1. Arns, M., De Ridder, S., Strehl, U., Breteler, M., & Coenen, A. (2009). Efficacy of neurofeedback treatment in ADHD: the effects on inattention, impulsivity and hyperactivity: a meta-analysis. Clinical EEG and neuroscience, 40(3), 180-189.
  2. Fuchs, T., Birbaumer, N., Lutzenberger, W., Gruzelier, J. H., & Kaiser, J. (2003). Neurofeedback treatment for attention-deficit/hyperactivity disorder in children: a comparison with methylphenidate. Applied psychophysiology and biofeedback, 28, 1-12.
  3. Mennella, R., Patron, E., & Palomba, D. (2017). Frontal alpha asymmetry neurofeedback for the reduction of negative affect and anxiety. Behaviour research and therapy, 92, 32-40.
  4. Briesemeister, B. B., Tamm, S., Heine, A., & Jacobs, A. M. (2013). Approach the good, withdraw from the bad—a review on frontal alpha asymmetry measures in applied psychological research. Psychology, 4(03), 261.
  5. Hoedlmoser, K., Pecherstorfer, T., Gruber, G., Anderer, P., Doppelmayr, M., Klimesch, W., & Schabus, M. (2008). Instrumental conditioning of human sensorimotor rhythm (12-15 Hz) and its impact on sleep as well as declarative learning. Sleep, 31(10), 1401-1408.
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