セルフ・モニタリング傾向が高い人は優れているのか

セルフ・モニタリング傾向が高い人は優れているのか
他人の評価と気持ちに気を遣って、自分の行動を調整することはよくあることと思われます。社会心理学の分野では、そういう他者からの評価や反応を考慮して自分の行動を調整することを「セルフ・モニタリング」と呼びます。従来の先行研究の知見では、セルフ・モニタリングの傾向が高い人は他人からより高い評価を得られるなどのポジティブな面がある一方で、「カメレオンのような人間」というネガティブな面もあります。果たして、セルフ・モニタリングはどういうものなのでしょうか。

セルフ・モニタリングとは?

セルフ・モニタリング(self-monitoring)は、社会的な対人場面において、個人が状況と他者の行動を観察し、自分が起こす(した)行動、また他人に与える印象が適切であるかどうかを考慮し、自分の行動をコントロールまた調整することを指します(1)。

高セルフ・モニタリングのメリット

先行研究により、セルフ・モニタリングの傾向が高い人は、
1. より他人の期待や外部的手掛かりに応じて行動する(2,3)。
2. より他者の反応を注意し、それに基づいて自分の行動を判断し、調整する(4)。
3. より正確に他者の考えを把握できる(5)、そして他者からより高い評価をもらえる(6)。
4. 職場の中で流れるネガティブな噂話は、メンバーのOCB行動(organizational citizenship behavior: 組織市民行動、契約業務以外の組織や企業内での自発的な他者を支援する行動)とネガティブな相関を持っているそういう噂話が流れるほど、職員のOCB行動は少なくなる。一方、セルフ・モニタリング傾向が高い人(高セルフ・モニター)は他者からの好印象を維持する傾向が強いため自然とOCB行動をとる傾向が高くなる。よって、高セルフ・モニターの従業員がいると、ネガティブな噂話が要因となるOCB行動の減少が弱まった(7)。

低セルフ・モニタリングにもメリットがある

上記の知見により、セルフ・モニタリング傾向が高い人は他の人間から高評価を得られやすく、特にサービス業や管理職でより大きな力を発揮できるなどのメリットがありますが、セルフ・モニタリング傾向が低いことは決して悪いことではありません。
例えば、SNSに関する研究により下記の知見が発見されました(8,9)。
1. セルフ・モニタリング傾向が低い人(低セルフ・モニター)は、素直に自分を表現していて、他者に好印象を与えるために虚像を投影する可能性が低いため、FacebookなどのSNS上で他人を満足させる理由で自分を偽る必要性が低く、ストレスも溜めにくい。
2. 低セルフ・モニターはSNS上での社会的関係により満足し、より他者とのつながりを感じられる。

また、高セルフ・モニタリングが望ましくない結果をもたらすこともあります。
例えば、他人からの評価を気にしすぎて、普段人に見せる言動と自分の本来の姿と大きく異なっていることが人に暴露してしまった場合、逆に「カメレオン」や「八方美人」に悪評されたこともあります。そして、セルフ・モニタリングはナルシシズム(注1)、マキャベリズム(注2)、サイコパシー(注3)という「ダークトライアド(注4)」の特質とポジティブな相関を持っているという指摘もあります(10)。「他人からの良い評価に対する執着が強い」と評価されたら、逆に他人からの不信感を生じることもあります。

これらのことから、他人からの評価や反応に配慮して行動するのはよいことですが、「本当の自分」を隠すことまでする必要はありません。もし自分の言動をモニタリングすることでストレスを感じたら、少し素直になった方が自分のためにもなりますし、他の人のためにもなると思われます。

まとめ:一つや二つの特質で人を評価しない

セルフ・モニタリングに限らず、雑誌のコラムやニュースでよく見かける「大学や研究機関の発見によると、人のある特質は社会的に望ましく、よい結果や評価と結びついている」などの話は、あくまで他の要因を統制して、統計的な手法で検証して出した結果です。人間は複雑で、その人の行動に影響している要因も複雑であるため、「この人のこういう特質が強いので、絶対こうなる・こうする」ということはありません。採用や人事評価の際に、心理学の尺度や生理指標を使って候補者と従業員を評価することが段々と普及されている時代の流れの中で、学術的知見をよりよい状況や環境作りに活かすことは重要ですが、一方で学術的知見を妄信しないことも重要だと考えます。

センタンでは、学術的知見を活用しながら生体データを正しく取扱い・読み解くために日々研究や技術開発を重ねています。生体データの利活用支援や様々な課題解決に繋がる研究・開発支援(受託研究)が可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

注記

(注1) ナルシシズム
 ア)自己愛が非常に強く、社会的地位や目標を達成することで自己満足と周囲の注目を得ようとする。
 イ)自慢ばかりして、他人の気持ちに共感できない、他人を思いやることができない。
 ウ)日常生活の中で、承認欲求が強く、過剰に他人の評価を気にする。
(注2) マキャベリズム
どんな手段や非道徳的な行為であっても、結果として国家や組織の利益を増進させるのであれば許されるという考え方。
(注3) サイコパシー
良心と共感性が欠けている、利己的・衝動的で暴力など社会的規範から逸脱した行為をとりやすい性格(11)。
(注4) ダークトライアド
上記の3種類の特質が揃っている性格を指す。この3つの特性が高い人々は、犯罪を起こし、社会的苦痛を引き起こし、組織にとって重大な問題を引き起こす恐れがあり、それは特にリーダーシップポジションに置かれたときに顕著となる(12)。

引用文献

  1. Snyder, M. (1974). Self-monitoring of expressive behavior. Journal of Personality and Social Psychology, 30(4), 526–537.
  2. Graziano, W. G., & Bryant, W. H. M. (1998). Self-monitoring and the self-attribution of positive emotions. Journal of Personality and Social Psychology, 74(1), 250–261.
  3. Harris, M. J., & Rosenthal, R. (1986). Counselor and client personality as determinants of counselor expectancy effects. Journal of Personality and Social Psychology, 50(2), 362–369.
  4. Miell, D., & le Voi, M. (1985). Self-monitoring and control in dyadic interactions. Journal of Personality and Social Psychology, 49(6), 1652–1661.
  5. Ickes, W., Stinson, L., Bissonnette, V., & Garcia, S. (1990). Naturalistic social cognition: Empathic accuracy in mixed-sex dyads. Journal of Personality and Social Psychology, 59(4), 730–742.
  6. 大嶋玲未 小口孝司 (2014). サービス提供者のセルフ・モニタリング,誠実性と評価指標の関連性 Rikkyo Psychological RSESearch, Vol. 56, 23-32.
  7. Xie, J., Huang, Q., Wang, H., & Shen, M. (2019). Coping with negative workplace gossip: The joint roles of self-monitoring and impression management tactics. Personality and Individual Differences, 151, Article 109482.
  8. Day, D. V., & Schleicher, D. J. (2006). Self-Monitoring at Work: A Motive-Based Perspective. Journal of Personality, 74(3), 685–713.
  9. Pornsakulvanich, V. (2017). Excessive use of Facebook: The influence of self-monitoring and Facebook usage on social support. Kasetsart Journal of Social Sciences, 39(1), 116–121.
  10. Kowalski, C. M., Rogoza, R., Vernon, P. A., & Schermer, J. A. (2018). The Dark Triad and the self-presentation variables of socially desirable responding and self-monitoring. Personality and Individual Differences, 120, 234–237.
  11. Hare RD. (1991) Manual for the Hare Psychopathy Checklist-Revised. Multi-Health Systems.
  12. Jakobwitz, S.; Egan, V. (2006). “The ‘dark triad’ and normal personality traits”. Personality and Individual Differences 40 (2): 331–39.
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