気候が人の気分や行動に与える影響

気候が人の気分や行動に与える影響

雨の日はなんだか気分が落ち込む、陽気な日は自然とリラックスできるなどなど日々の気分や体調が、その時の気候に大きく影響を受けているのはみなさん経験していると思います。実際に一例として、気温の上昇がネガティブ気分を上昇させ、一方で風力や日照時間の上昇がネガティブ気分を減少させるのを示した研究があります(1)。実は多くの研究から、気温などの気候が、気分や体調だけでなく、私たちの行動やアンケート回答などにも影響していることがわかってきました。今回はそのような気候の影響の研究をご紹介します。

レストランのコメントへの影響

天候は、お客さんによるレストランへの評価に影響しているようです(2)。フロリダのあるレストランのチェーン店では、訪れたお客さんがレストランに対してコメントを残せるカードが備わっていました。このコメントカードの集計結果と天候との関係を調べると、天候が悪いとレストランの評価が下がる傾向がありました。具体的には、雨天時や気温や気圧が高い時にネガティブなコメントが増える傾向がありました(フロリダの気候的な特性から、気温や気圧が高い時は不快と感じる人が多いと考えられます)。さらなる調査の結果を考慮すると、天候が悪いとネガティブな気分になり、その結果、評価が悪い方向にバイアスがかかったと考えられます。
このように天候が悪いと、お店の評価や口コミに悪い方向へのバイアスがかかってしまう可能性があるので、お店側は天候の悪い日は普段よりサービスを良くした方がいいかもしれません。

ソーシャルメディアの反応への影響

天候はソーシャルメディア上でのユーザーの行動にも影響します。ある研究では、電気やガスなど公共企業によるFacebookの投稿に対するユーザーの反応が、天候に影響されているかを調べました(3)。その結果、降水量や湿度が高くなると、企業のポストに対するコメントの数が上昇する傾向がありました。さらに女性に関して、気温が上昇するとポストに対する反応数が増える傾向がありました。加えて、湿度が高くなると女性によるコメントが上昇し、気圧が高くなるとコメントが減少する傾向がありました。
さらにシェアの反応をみると、気圧が上昇するとポストがシェアされる確率が減少する傾向があり、気圧の影響は特に女性で顕著な傾向がありました。一方で降水量が増えると、シェアする確率が上昇していました。ただし、コメントやシェアなどの反応は、曜日などの暦、企業がポストした文章の内容や長さなどによっても影響を受けることがデータより示唆されているので、単純に気候だけの影響とするのは注意が必要と考えられます。
天候がFacebookでの行動に影響する原因は不明ですが、単純に天候が悪くなると、屋外での活動が妨げられ、その結果ネットサーフィンする時間が増え、ソーシャルメディアの投稿に触れる機会や積極的な関与が上昇することが推測されます。これらのことから、天候が心理や行動に与える因果的な影響を調べるためにはさらなる研究が必要と考えられます。
しかし、企業の広報が記事を投稿するときは、その時の天候等を考慮することでユーザーに反応してもらえる確率を上昇させることが可能になるかもしれません。

電話への影響

天候は電話の通話時間にも影響するようです(4)。通話記録と天候の関係を分析した調査によると、気温が下がると平均的な通話時間は変わりませんが、6分以上の通話をする確率が上昇することがわかりました。また、湿度が高い(80-100%)あるいは低い(0-20%)場合も、同様に平均的な通話時間は変わらず、6分以上の通話が行われる可能性が高くなりました。さらに気圧の影響もあり、気圧が高い(1040hPa以上)と3分以上の通話になる確率が高くなりました。
このような傾向が現れる原因は不明ですが、寒い日や不快な日は長電話したくなるのかもしれませんね。

お店の売上への影響

天候はお店の売り上げを左右します(5)。基本的に悪天候の場合は、お店に行って買い物をする意欲が下がり、販売量も下がると考えられますが、品物によってはより複雑な関係も見られます。例えば、あるお店のお茶の売り上げと天候の関係を調べると、温度が低いときは日照時間が長いほど売れるのに対して、温度が高いときは日照時間が長いと売り上げが下がる傾向がありました。
天候の要因のなかでも、日光は人のネガティブな感情を減らし、より浪費を促す効果があるようです。実際、日々の天候と気分の調査を調べると、日照時間が長いと、ネガティブな感情を減少させる効果がありました。さらに実験室で、太陽光に近い光線を出すサンランプを使った実験では、サンランプがネガティブ感情を減少させ、さらに被験者が飲料やジムの会員などの購買により多くの金額を支払ってもよいと思わせるような効果がみられました。
これらのことから、日照時間に応じて価格を変動させたりサービスを付加したりすることで、売上の安定や向上を達成できるかもしれません。

流行る音楽への影響

天候と流行る音楽との関係も調べられています(6)。イギリスの1953年から2019年までの週間トップ100チャートにランクインした23,859曲に関して、その音楽の特徴と天候の関係を分析した研究があります。音楽の特徴は、ダンス性、エネルギー、音の強さ、テンポ、感情価などの項目で構成され、分析時にはこれらの特徴をまとめて高覚醒でポジティブな音楽と、低覚醒でネガティブな音楽という項目で曲を評価しました。天候と音楽性の関係の分析の結果、高覚醒でポジティブな音楽は平均気温や日照時間が増えると増加し、雨天の日数が増えると減少する関係が見られました。一方、低覚醒でネガティブな音楽は、天候との関係性は見られませんでした。さらに、チャートのトップ10に入った曲と、チャートの下位の10曲(91-100位)に分けて分析したところ、トップ10の高覚醒でポジティブな曲は前述の結果と同様に、平均気温と日照時間が増えると増加する傾向がみられました(雨天の日数とは関係は見られませんでした)。しかし、下位の高覚醒でポジティブな曲に関して、そのような傾向は見られませんでした。
これらの結果から、気温や日照時間が増加し雨天の日が減ると、明るくポップな曲が流行ることが予想されます。ただし、因果関係が明瞭でないこと、イギリスのデータであること、音楽の流行りには音楽業界の影響が大きいなど、単純に天候の影響を解釈することには注意が必要そうです。

調査の回答への影響

天候がアンケートの回答に影響する例もあります。例えは、気温が収入の自己申告額に影響することを示した研究があります(7)。発展途上国では、給与に関するシステムが未発達な場合があり、そのような場合は自己申告によって収入額を調査します。
前年度の所得の自己申告額とその調査日の気温との関係を調べると、気温が高いと申告額が低くなる傾向がありました。減少の割合は平均所得の約5%に相当しており、無視できないほどの大きさでした。さらに、気温が高くなるほどこの傾向が顕著になりました。また、調査では気温が高いと、生活満足度が低くなる傾向がありました。このような生活に対するネガティブな感情が、所得の自己申告額に影響した可能性がありますが、明確な理由は不明です。
このように、天候によって回答にバイアスがかかるということは、アンケートを行う際は調査日の天候も分析時に考慮する必要があることを示唆しています。

まとめ

以上のように気候と私たちの気分や行動が大きく結びついていることがわかりました。ただし気候が具体的にどのように気分や行動に影響を与えているかの因果関係の解明は難しく、結果を解釈するには注意が必要です。また、多くの研究のデータは特定の地域から得られたものであり、地域によって快や不快に感じる天候は異なるので、ある地域で得られた結果が他の地域にも当てはまるかどうかは不明です。しかし、天候が人々の気分や行動に影響していることを利用したり気にかけたりすることで、お客さんの好反応や売上の向上、バイアスの少ないアンケートの取得などが可能になるかもしれません。

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引用文献

  1. Denissen, J. J., Butalid, L., Penke, L., & Van Aken, M. A. (2008). The effects of weather on daily mood: a multilevel approach. Emotion, 8(5), 662.
  2. Bujisic, M., Bogicevic, V., Parsa, H. G., Jovanovic, V., & Sukhu, A. (2019). It’s raining complaints! How weather factors drive consumer comments and word-of-mouth. Journal of Hospitality & Tourism Research, 43(5), 656-681.
  3. Martin, S., Wetzelhütter, D., & Grüb, B. (2021). Do you like me when the sun is shining? The influence of weather and point-in-time on the stakeholder-Dialogue in Facebook. International Journal of Energy Sector Management, 15(3), 578-599.
  4. Phithakkitnukoon, S., Leong, T. W., Smoreda, Z., & Olivier, P. (2012). Weather effects on mobile social interactions: a case study of mobile phone users in Lisbon, Portugal. PLOS ONE 7(10): e45745.
  5. Murray, K. B., Di Muro, F., Finn, A., & Leszczyc, P. P. (2010). The effect of weather on consumer spending. Journal of Retailing and Consumer Services, 17(6), 512-520.
  6. Anglada-Tort, M., Lee, H., Krause, A. E., & North, A. C. (2023). Here comes the sun: music features of popular songs reflect prevailing weather conditions. Royal Society Open Science, 10(5), 221443.
  7. Sun, A., Xiang, W., & Jiang, X. (2024). The temperature effect on perceived income. Scientific Reports, 14(1), 6169.
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