笑う門には福来る:脳科学や心理学が教える笑いの魔法

笑う門には福来る

仲の良い友人と昔話をしていて大笑いしたことはありませんか?たわいもないエピソードなのに、笑いがこみ上げてきて、涙が出るほど笑ってしまう。みなさん、そのような経験があるのではないでしょうか。その瞬間、何もかもが楽しく感じられ、心の重荷がすっと消えたような気がしたことでしょう。
このように、笑うことは、一時的な楽しさだけでなく、それ以上のものももたらしてくれます。笑いには私たちの心や体に驚くべき効果があることが、さまざまな研究で明らかにされつつあります。今回は、いったい笑いとは何なのかを脳科学や心理学の視点から紐解き、笑いがもたらす魔法のような効果について探っていきます。

どんな時に笑いますか?

みなさんは、どんな時に笑うでしょうか?また、どのような原因で笑うでしょうか?笑いはさまざまな状況で生まれます。いくつかの典型的な笑いの状況をみてみましょう。

  • ユーモアやジョーク:これは最も一般的な笑いの原因です。ユーモアやジョークは、思ってもみなかった展開が生じた時や、何らかの矛盾が生じた時などに、わたしたちの脳は、自分の予想との不一致に気づいて、その不一致の原因が理解できた時に笑いを引き起こします(1)。
  • 社会的交流:日常の会話の中で、家族や友人との交流時に笑いが生まれることがあります。例えば、家族で夕食を囲んでいる時、誰かが今日の出来事について面白い話をすると、自然と笑いが起こります。これにより、家族の絆が深まり、リラックスした雰囲気が生まれます。この笑いは社会的な絆を強めるための反応と言えます(2)。
  • 緊張の緩和:ストレスの多い状況や緊張した場面での笑いもあります。例えば、プレゼンテーション前の緊張した瞬間に、自己紹介でユーモアを交えることで笑いが生まれ、場の緊張がほぐれることがあります。この笑いは心理的な防御機構として機能し、ストレスを和らげる役割を果たします(3)。また、コミュニケーションの障壁を取り除き、よりオープンで率直な対話を促進します。
  • 共感と理解:他者の感情や状況に共感し、理解することで笑いが生まれることもあります。例えば、友人が失敗談を話した時、その状況に共感して「私も同じような経験がある」と笑いながら話すことで、共感と理解が深まり、絆が強まります。この笑いは相互理解を深めるための手段となります(2)。

こうしてみると、笑いは、人との会話や繋がりの中で生まれることが多いですね。

なぜ人間は笑うのでしょうか?

人間がなぜ笑うのかについては、心理学の観点から多くの研究が行われています。笑いは基本的に社会的な行為であり、人間関係を築くためのツールと考えられています。笑いは他者との繋がりを強め、グループ内の協力関係を深める役割を果たします。進化の観点から見ると、笑いは人間の進化の過程で生存に有利な機能を持っていたと考えられています。例えば、古代の人々が集まって笑い合うことで、社会的な絆が強化され、集団としての生存率が高まった可能性があります(2)。また、笑いは緊張を和らげ、対立を減少させる効果があるため、社会的な調和を保つ手段として進化してきたと考えられます(3)。

笑いを脳のメカニズムから見てみると

笑いを脳科学の観点からもみてみましょう。例えば、友人が会話の中でジョークやユーモアのある話をした時に、わたしたちの脳の前頭葉や側頭葉は、「あれ?思っていた話と違うぞ」と、自分の予想と違った話の流れになったことにいち早く気づきます。気づいた不一致の原因、この例で言うと、ジョークやユーモアの意味を、感情や記憶の処理に関与する扁桃体などの脳領域で理解することによって笑いが生じます(1)。笑う時に楽しいと感じるのは、感情処理を行う扁桃体が関わっているからと考えられます。もし、ジョークやユーモアの意味を扁桃体が理解できないままだと、笑いや楽しい感情は生じません(「何を言ってるか分からない」とキョトンとするだけの状態です)。このように、笑いにも、いろいろな脳の処理が関わっているのです。
笑いと脳の関係は、単なる一時的な楽しさに留まりません。例えば、笑うと脳内ではドーパミンと呼ばれる物質が増えることが知られていますが(4)(5)、ドーパミンは、脳が快楽や満足感を感じた時に出てくる物質で、やる気やモチベーションを高める作用があります。笑いが、やる気やモチベーションを高めることや(6)、ユーモアあふれる職場環境が、従業員の仕事への満足度やパフォーマンスを高める(7)のはドーパミンの作用のおかげかもしれません。

笑いがもたらす魔法の効果

笑いがもたらす効果をもう少し見ていきましょう。ストレスが私たちの生活に及ぼす影響は計り知れませんが、笑いはそのストレスを軽減する強力なツールとなります。ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が、笑いによって抑制されることが研究で確認されています(8)。例えば、仕事のプレッシャーに押しつぶされそうな時でも、同僚と一緒に笑い合うことで、緊張がほぐれ、リラックスした状態に戻ることができます。これは、副交感神経が優位になることで、身体全体がリラックスし、ストレスの影響を受けにくくなるためです。
笑いを通じて、ナチュラルキラー細胞や抗体などの免疫機能が活性化することを報告する研究もあります(6)(9)。これにより、私たちの身体はウイルスや細菌に対する防御力を高めることができます。特に、定期的に笑う習慣を持つことで、風邪やインフルエンザの予防に役立つ可能性があります。また、笑いによって、鎮痛効果のあるエンドルフィンの分泌が促進され、痛みの緩和に役立つとする研究(10)や、心拍数や血圧を安定させ、自律神経系のバランスを保つ効果について言及する研究(11)もあります。このように、笑いには、数多くの魔法のような効果があるようです。

まとめ

笑いは、私たちの心や体に多くのポジティブな影響をもたらす素晴らしい行為です。脳科学や心理学の視点から見ても、笑いが社会的絆の強化、ストレス軽減、免疫機能の向上に寄与することが確認されています。意識的に日常生活に笑いを取り入れることで、心身の健康を向上させ、より充実した生活を送ることができるでしょう。コメディ映画やお笑い番組を観ることは手軽な方法です。また、ユーモアのある友人と過ごす時間を増やすことで、自然と笑いの機会が増えます。笑いヨガやユーモアトレーニングに参加することも効果的です。日々、笑いの瞬間を見逃さず、その魔法の力を最大限に活用してみてください。あなたの生活がさらに明るく、健康的になること間違いなしです。

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引用文献

  1. Moran, J. M., Wig, G. S., Adams, R. B., Janata, P., & Kelley, W. M. (2004). Neural correlates of humor detection and appreciation. NeuroImage, 21(3), 1055-1060.
  2. Provine, R. R. (2001). Laughter: A Scientific Investigation. Penguin.
  3. Ruch, W. (1993). Exhilaration and humor. In M. Lewis & J. M. Haviland (Eds.), Handbook of Emotions. Guilford Publications.
  4. Yim, J. (2016). Therapeutic benefits of laughter in mental health: a theoretical review. The Tohoku journal of experimental medicine, 239(3), 243-249.
  5. Mobbs, D., Greicius, M. D., Abdel-Azim, E., Menon, V., & Reiss, A. L. (2003). Humor modulates the mesolimbic reward centers. Neuron, 40(5), 1041-1048.
  6. Savage, B. M., Lujan, H. L., Thipparthi, R. R., & DiCarlo, S. E. (2017). Humor, laughter, learning, and health! A brief review. Advances in physiology education.
  7. Mesmer‐Magnus, J., Glew, D. J., & Viswesvaran, C. (2012). A meta‐analysis of positive humor in the workplace. Journal of Managerial Psychology, 27(2), 155-190.
  8. Berk, L. S., Tan, S. A., Fry, W. W., Napier, B. J., Lee, J. W., Hubbard, R. W., … & Eby, W. C. (1989). Neuroendocrine and stress hormone changes during mirthful laughter. The American Journal of the Medical Sciences, 298(6), 390-396.
  9. Bennett, M. P., Zeller, J. M., Rosenberg, L., & McCann, J. (2003). The effect of mirthful laughter on stress and natural killer cell activity. Alternative Therapies in Health and Medicine, 9(2), 38-45.
  10. Dunbar, R. I., Baron, R., Frangou, A., Pearce, E., Van Leeuwen, E. J., Stow, J., … & Van Vugt, M. (2012). Social laughter is correlated with an elevated pain threshold. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 279(1731), 1161-1167.
  11. Oliveira, R., & Arriaga, P. (2022). A systematic review of the effects of laughter on blood pressure and heart rate variability. Humor, 35(2), 135-167.
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