香りが与える効果と影響:香りと人の密接なつながり

香りが与える効果と影響
皆さんは普段どれくらい自分がかいでいる香りを気にかけているでしょうか。香りをかいで快さや不快さ、親しみや懐かしさなどを感じることがあると思いますが、人が香りをかぐ時は、実は受身的に香りを感じているわけではなく、それまでの経験や記憶によって感じ方が変わったり、その後の意思決定や行動に影響を及ぼしていたりすることがあります。
この記事では、そのような香りと人が深く結びついている研究事例をご紹介します。

香りへの単純接触の効果

ある香りに接する機会が増えると、その香りに対する感度が上昇することがこれまでの研究で示されています。
実験では参加者に香りを分類する課題や微かな香りを検出する課題を行ってもらいましたが、その前に課題で使う香りをかぐ機会を増やすと、課題の成績が向上していました(1,2,3)。
これは、ある香りに触れる機会が増えれば増えるほど、その香りが自分にとって特別なものになっていくことを示しており、経験によってまさに鼻が利くようになることを教えてくれます。

香りへの言語ラベルの効果

一般的に香りをかぐ時は、香りを放出している物質や香りの名前など嗅覚以外の情報も同時に提示されることが多いですが、それらが香りの感じ方に影響することがあります。
例えば、全く同じ香りに対して与えられた香りの名前が異なると、香りの感じ方が変わってしまうことを示した研究があります(4)。
実験ではイソ吉草酸と酪酸の混合物の匂いに対して、「チーズ」と教えられた場合は、「嘔吐物」と教えられた場合に比べて、快さが高く評価されました。
一般的に同じ香りに対して、ポジティブなラベルを与えられた場合の方が、ネガティブなラベルを与えられた場合に比べて快度が高くなる傾向がありました。

また、これまで香りと言語ラベルを一緒に経験することで蓄積された香りと言葉の結びつきが、香りの感じ方に影響することも実験で示されています(5)。
例えば、香りの評価を行ったとき、香りの名前を教えられた参加者群は教えられなかった群に比べて、香りの強度・快度・親密度の評価が高い傾向がありました。さらに、香りの名前を教えた群の中で香りと名前がマッチしていると感じた参加者は、上記評価項目が高い傾向がありました。名前を教えなかった群でも、香りを特定できた参加者は上記評価項目が高い傾向がありました。
これは私たちが香りをかぐ時は、言語の情報と統合された後で、香りを感じていることを示しています。

より直接的に言葉と香りの感度の結びつきを示した研究もあります(6)。
この実験では、香りにラベルをつけるトレーニングや香りの評価を行った参加者は、香りの分類能力が向上しました。ただし、テストで使用しなかった香りのラベルづけをした参加者には効果はありませんでした。
これらの結果は、匂いの感覚が言葉といった他の情報と密接に結びついて脳内で処理されていることを示しています。

香りが意思決定に与える影響

私たちの香りの感じ方は様々な要因により影響を受ける一方で、香りが気づかないうちに人の意思決定に影響する場合があります。
その例として、無意識的にかいだ香りがその後の食事のメニュー選択に影響することを示した研究があります(7,8)。
実験では、参加者はメニューの選択をする前に別室でしばらく待機していましたが、この時に参加者は2つの条件に分けられ、片方の条件では微かにフルーツの香りがある部屋で、もう片方の条件では香りのない部屋で待機しました。その後、参加者は待機部屋から移動し、食事のメニューの選択を行いました。この時、フルーツの香りのある部屋で待機した参加者は、香りのない部屋で待機した参加者に比べて、フルーツが含まれたメニューを選ぶ確率が高くなりました。実験後の質問で、香りのある部屋で待機した参加者は、待機部屋での香りに気がついてはいませんでした。
このように自分の意思で決めていると思っていることが、実は気づかないうちに香りの影響を受けていることは、普段の生活でも起きている可能性は十分にあります。

香りが行動に与える影響

香りの影響は意思決定にとどまらず、行動にも影響する可能性があります。
ある実験では、香りとその香りから連想されるイメージの結びつきが様々な行動に反映されることを示しました(9)。
この実験では、本人が気づかないくらの微かな柑橘系のクリーナーの香りを参加者にかがせて課題を行いました。柑橘系の香りは家庭用の洗剤によく用いられており、「掃除」というイメージを多くの人が共有していると考えられています。実験結果によると、単語に素早く反応する課題をさせた時に、香りをかいだ場合は掃除に関連する単語への反応時間が短くなりました。また、香りをかいだ参加者は、実験後の予定を聞かれた時に掃除関連の行動が入る割合が上昇したり、ビスケットを食べてもらった際のビスケットのこぼれかすを取り除く回数が増加したりしました。
この結果は、香りが人の知識や経験などと深く結びついており、さらにそれを通して人の行動にも気づかずに影響を及ぼしていること示しています。

まとめ

このように、人が香りを感じる時には香り以外の情報に影響され、また香りは気がつかないうちに人の意思決定や行動に影響を及ぼしていると考えられます。これらのことは、香りと他の感覚や情報を結びつけることで、今までにない豊かな体験を生み出せる可能性や、香りをうまく日常生活に取り入れることで、よりよい日々を送れる可能性があることを示しています。

センタンは、脳波・心拍数・皮膚電気反応などの生理指標と主観指標(アンケート)を用いたフレーバーの好感度評価などの実験・解析の実績があります。香りに関する研究・開発支援(受託研究)が可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

引用文献

  1. Jehl, C., Royet, J. P., & Holley, A. (1995). Odor discrimination and recognition memory as a. Perception & psychophysics, 57, 1002-1011.
  2. Tempere, S., Cuzange, E., Bougeant, J. C., De Revel, G., & Sicard, G. (2012). Explicit sensory training improves the olfactory sensitivity of wine experts. Chemosensory Perception, 5, 205-213.
  3. Dalton, P., Doolittle, N., & Breslin, P. A. (2002). Gender-specific induction of enhanced sensitivity to odors. Nature neuroscience, 5(3), 199-200.
  4. Herz, R. S., & von Clef, J. (2001). The influence of verbal labeling on the perception of odors: evidence for olfactory illusions?. Perception, 30(3), 381-391.
  5. Hudson, R., & Distel, H. (2002). The individuality of odor perception. Olfaction, taste, and cognition, 408.
  6. Rabin, M. D. (1988). Experience facilitates olfactory quality discrimination. Perception & Psychophysics, 44(6), 532-540.
  7. Gaillet, M., Sulmont-Rossé, C., Issanchou, S., Chabanet, C., & Chambaron, S. (2013). Priming effects of an olfactory food cue on subsequent food-related behaviour. Food Quality and Preference, 30(2), 274-281.
  8. Gaillet-Torrent, M., Sulmont-Rossé, C., Issanchou, S., Chabanet, C., & Chambaron, S. (2014). Impact of a non-attentively perceived odour on subsequent food choices. Appetite, 76, 17-22.
  9. Holland, R. W., Hendriks, M., & Aarts, H. (2005). Smells like clean spirit: Nonconscious effects of scent on cognition and behavior. Psychological science, 16(9), 689-693.

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