共有体験:誰かと一緒に同じ体験をすることの効果

共有経験:誰かと一緒に同じ体験することの効果

何か楽しいことを体験するときは一人ではなく、友人など親しい人と一緒に体験したいと思う人は多いと思います。話し相手がいたり、リラックスできたりなど、その理由はいろいろあると思いますが、誰かと一緒に過ごした方が楽しさは増えるように思えます。実は同じ出来事や内容でも、他者とその体験を共有すること自体が私たちの感覚や感情に大きく影響することが様々な研究よりわかっています。さらに、共有体験が他者との親近感を助長することも示されています。今回のコラムではこの共有体験についてご紹介します。

楽しい時は誰かと一緒にいる

冒頭で他者の存在と楽しさについて述べましたが、他者の存在と楽しい気分の関係を実際の生活の中で調べた研究があります(1)。
この調査では、対象者に普段の生活をしてもらいながら、継続的にアンケートに回答してもらいました。その結果、日常生活の中で対象者が楽しさを感じている時の多くの場合、他者と一緒にいることがわかりました。また、他人と一緒にいるときに感じる楽しさは、読書など一人でいるときに感じる楽しさより、興奮や愉快といった活動的なポジティブ感情が高い傾向がありました。
さらに、他者の存在と楽しさの関係を調べるために、被験者にジェンガで遊んでもらう実験を行いました。遊ぶ際は、被験者一人だけ、知らない他人と一緒、友人と一緒の場合の三通りありました。その結果、一人で遊ぶ時より誰か他の人と一緒に遊んだときの方が楽しく、さらにその他者が友人の場合の方が、知らない他人の時比べて楽しさは高い傾向がありました。
これらの結果から、活動的で楽しい時間を過ごすのと、他者がいることが深く結びついていることが示されます。単純に他者と一緒にいるだけでなく、他者と交流することにより生まれる様々なことも影響していると考えられますが、より楽しい気分になるためには他者の存在が重要な要因の一つのようです。

誰かがいると感覚が鋭敏に

なぜ、他者の存在は楽しさを高める可能性があるのでしょうか。理由はいろいろあると考えられますが、その一つとして実は他者と体験を共有すること自体が、本人の感覚や感情の強度を高めていることを示す研究があります(2)。
この研究では、参加した被験者は訪れた実験室で他の被験者とペアを組みました。ただし、このペアの相手は本当は実験者の一人ですが、実験を統制するために実験者という身分を隠して被験者として参加していました。実験で被験者は、チョコレートを食べることと、アートの冊子を読むことの2つの課題を行いました。この時、ペアの相手が同じ課題をしている場合(例えば自分も相手もチョコレートを食べている)と、異なる課題をしている場合(例えば自分はチョコレートを食べ、相手はアートの冊子を読んでいる)がありました。課題中、ペアはお互いに相手が何をしているかはわかりましたが、会話するといった交流はありませんでした。チョコレートを食べた場合はその後、チョコレートに関するアンケートを行いました。その結果、自分もペアの相手もチョコレートを食べていた時は、相手がアートの冊子を見ている時に比べて、チョコレートの好みや味のアンケート評価が高くなっていました。つまり、同じチョコレートにも関わらず、相手が何をしているかによって評価が変わっていました。次に、一般的には好まれない苦みの強いチョコレートを用いて同様な実験をしたところ、自分も相手もチョコレートを食べていた時は、相手が異なることをしていた場合に比べて、チョコレートの好みの評価が低くなっていました。これらの結果から、他の人が同じことをしている場合は、今体験していることが強化されている(チョコレートを無意識に味わう)ことが示唆されていました。また、被験者は他者の存在が自分のチョコレートの評価に影響しているとは感じていないようでした。
ではなぜ、他の人と同じことを体験している時の刺激は強化されるのでしょうか?残念ながら明確な理由はまだわかっていませんが、他の人と同じ活動をしていると刺激に対してより注意を向けるようになり、その結果刺激のインパクトが大きくなることがその理由の一つとして考えられます。

誰でもいいわけではない

他の人と体験を共有することによる感覚の強化は、相手との親密度が影響することもわかりました(3)。
被験者は前述の実験のように、体験を共有する相手とは実験室で初めて会いますが、あるペアは、最初にお互いのことを知るための質問で10分間の会話をしてもらいました。他のペアは、このような参加者間の会話はありませんでした。体験の共有前に会話をしたペアは、自分も相手も同時にチョコレートを食べる体験をした場合、相手が異なることをしていた場合に比べて、チョコレート自体や食べる体験を好ましいものと評価していました。一方、会話をしなかったペアは、相手が何をしているかはそれらの評価に影響していませんでした。さらに、会話をした場合のチョコレートの評価は、相手と体験を共有した場合の方が、相手はなく一人のみで体験した場合よりも高くなっていました。また、上のセクションでも記載したようにジェンガで遊ぶ時、一緒に遊ぶのが友人の場合の方が、知らない他人の場合より楽しく感じられ、この実験も親密度が体験を強化していることを示しています。

日常生活では、レストランやカフェなどの飲食店、映画館や遊園地などの娯楽施設で多くの他人と体験を共有していますが、そのような環境での他者の存在が気づかないうちに感覚や体験の強度を強めている可能性があります。また、マーケティング調査で製品等を評価してもらうときに、たとえ個人別に評価を行なっていても、その場に他の人がいるか、何をしているか、その人との関係性などの要因が評価結果に影響している可能性を示しています。
また、食事制限等で濃い味付けが制限されている場合など、他の人と一緒に食べれば味の濃さを強く感じるようになり、食事体験の向上に利用できるかもしれません。

ネットでの共有体験

ここまでは直接会った相手に関する話でしたが、体験を共有することによる感情の強化は実際に顔を合わせている必要はないかもしれません。インターネットの発達により、リアルタイムで動画をストリーミング配信できるようになり、世界中の人が同時に同じ映像をライブで経験できるようになりました。そのような多くのサービスでは、視聴者がリアルタイムにコメントを投稿できるようになっています。さらに多くの動画はリアルタイムの配信が終わった後、アーカイブとして保存され、後で視聴することもできます。そしてそのアーカイブ動画でも視聴者は、コメントを投稿することができます。ただしコメントの表示方法は異なる場合があり、ある動画サービスではライブの場合は様々なアカウントが投稿したコメントが、同一のウィンドウ内でリアルタイムに流れるように表示されますが、アーカイブの場合は過去に投稿されたコメントが少なくとも視聴中は固定した位置に表示されるようになっています。リアルタイムのライブ配信では、同時に他の人が見ていることがコメントや視聴人数等で分かりますが、アーカイブ配信では基本的に同時に他の人が見ているかどうかは分かりません。
ある研究(4)では、同じ動画に対して、リアルタイムのライブ配信時とアーカイブによる配信時で、投稿されたコメントを分析し、用いられているワードから投稿者の感情の強さを比較しました。その結果、ライブ配信時の投稿コメントの方が、ポジティブ感情もネガティブ感情も強いコメントが投稿されていました。さらに、ライブとアーカイブの両方で配信された同じ動画に対して、同一アカウントの人物が両方の動画にコメントした場合でも、ライブの方が感情的に強いコメントが投稿されていました。ライブ配信の方が、他人の存在や流れるように現れ消えていくコメント等により動画視聴に注意が向き没頭した結果、感情の強度が強くなった可能性があります。
この結果から、良くも悪くも興奮したいと思っている方は、たとえアーカイブで後から視聴可能だとわかっていても、ライブ配信で視聴した方が良さそうです。

誰かと仲良くなるには

上で述べたように他者とのつながりの強さが体験の強さに影響していました。それでは、そもそも他者とのつながりはどのように強くなっていくのでしょうか。理由はいろいろあると思いますが、非日常的な体験を一緒にするのがその一つと考えられます。
ある調査(5)では被験者に、過去にそれほど親密でない友人と、非日常的や日常的な体験を一緒にした場合のことを思い出してもらい、その友人に対してどれほど親密性があるかのアンケートをとりました。結果によると、非日常的な体験を一緒にした場合は、日常的な体験を一緒にした場合に比べて、友人に対する親密性が高く感じていることが示されました。
また、被験者に最近知り合った知人と一緒に非日常("黒色"のトイレットペーパーを一緒に買いに行く)や日常("白色"のトイレットペーパーを一緒に買いに行く)の体験をすることを想像してもらい、その後その知人のことをどれくらいより知るように感じるようになったかを回答してもらいました。結果は、非日常的な経験を想像した方が、日常的な経験を想像した場合より、知人のことをより知るようになったと感じていました。
想像だけでなく実際に非日常的な体験を知らない人と一緒にすると、その人に対する親近性が高くなることも示されています。この実験では、被験者が実験室で初めて会う人と、ウェハースの評価をするというものでした。その際、非日常的な条件と日常的な条件がありました。非日常的な条件では、被験者はウェハースを鼻の下に持っていき匂いをかいでそのウェハースの甘さを評価するというもので、日常的な条件では、ウェハースを口の中で溶かして甘さを評価するというものでした。この条件設定では、非日常的な条件の方が、甘さを評価するということに対して奇妙で普通ではない行動をしていると考えられます。その後、被験者は一緒に実験をした相手に対してどれくらい親近感があるかを評価しました。その結果、非日常的な条件に参加した被験者の方が、初めて会った相手に対して親近感を感じている傾向がありました。
一方で、上述の想像を用いるような実験の結果、非日常的な出来事を一緒に体験することによる親近感の上昇の効果は、すでに親近感がある程度高いような古くからの知人に対しては起きないことが示されました。
このようなことが起こる原因は、論文の著者によれば、知らない人と交流するのは最初に戸惑いや不安といったネガティブな感情があるが、非日常的な体験はそのようなネガティブな感情から注意をそらして、その体験自体の方に向けるような作用をする可能性があります。そのため不安感といった感情を感じにくくなり、結果として親近感が上昇したのではないかと考えられます。
理由はまだ不明な部分もありますが、知り合って間もない人とより仲良くなりたい場合は、意図的に少し普段の生活スタイルからずれた活動を一緒に行うようにすれば良さそうです。また、学校の新入生や企業の新入社員など、多くの知らない者同士の壁や不安感を素早く取り払うためにも、管理者側がこのような研究成果をオリエンテーション等に取り入れると効果が期待できるかもしれません。

まとめ

このように、他者と体験を共有することや、その他者との関係性が本人の感覚や感情の強度を上げることがわかりました。人生をより豊かで鮮やかなものにするには、親しい人と一緒に同じ体験をするようにすればいいのかもしれません。また、サービスの運用やイベントの企画などの際は、他者と体験を共有していることを意識させるような設計にしておくと、体験の強度が高まり、満足度や没入度が高く評価されるようになるかもしれません。

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引用文献

  1. Reis, H. T., O’Keefe, S. D., & Lane, R. D. (2017). Fun is more fun when others are involved. The Journal of Positive Psychology, 12(6), 547-557.
  2. Boothby, E. J., Clark, M. S., & Bargh, J. A. (2014). Shared experiences are amplified. Psychological science, 25(12), 2209-2216.
  3. Boothby, E. J., Smith, L. K., Clark, M. S., & Bargh, J. A. (2016). Psychological distance moderates the amplification of shared experience. Personality and Social Psychology Bulletin, 42(10), 1431-1444.
  4. Luo, M., Hsu, T. W., Park, J. S., & Hancock, J. T. (2020). Emotional amplification during live-streaming: Evidence from comments during and after news events. Proceedings of the ACM on human-computer interaction, 4(CSCW1), 1-19.
  5. Min, K. E., Liu, P. J., & Kim, S. (2018). Sharing extraordinary experiences fosters feelings of closeness. Personality and Social Psychology Bulletin, 44(1), 107-121
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