音と触覚の密接な関係:触覚刺激による音の感じ方への影響
私たちが感じている音は、その音の発生源が振動し、その振動が空気といった媒体を伝わり私たちの耳の鼓膜を刺激し振動させることにより感じています。一方、触覚は皮膚表面にある感覚受容器に振動や圧力が与えられることにより感じています。そのため、聴覚と触覚とでは、私たちが主観的に感じる感じ方は大きく異なりますが、どちらも物理的な振動刺激を知覚していると考えることができます。このことを反映してか、音の感じ方に触覚刺激が影響することを示す実験結果が多くあります。
触覚刺激による音の感じ方への影響
音の大きさと触覚刺激は密接に関係があり、音と同時に触覚に振動する刺激を与えると音が大きく聞こえることが実験により示されています(1,2)。実験では音を聞こえるか聞こえないかの小さな音量で聞かせ、音と同時に指先に振動を与えると、音の検出能力が向上していました。また、音の大きさのアンケートをすると、音と振動を同時に与えた場合、音のみの場合や音と振動のタイミングがずれている場合に比べて音を大きく感じていることがわかりました(2)。
さらに、振動はノイズの中での話し声の理解を向上させることもわかりました(3)。この実験では音声情報から生成した振動刺激を与えると、ノイズの中で話された言葉の識別の成績が向上していました。また、トレーニングによってこの識別能力はさらに上昇することもわかりました。
他にも、音声刺激の音節に合わせて指に振動刺激を与えるとノイズ中での発話された言葉の識別が向上した研究もあります(4)。
このように、適したタイミングで振動刺激を触覚に与えると、音が大きく聞こえたり、話し言葉の識別が向上したりすることは、聴覚と触覚の処理が脳内で深く結びついていることを示しています。また、このような触覚の聴覚への影響を利用して、聴覚に障害がある場合の補助をする機器の開発も進んでいるようです。
振動刺激と音楽との関連
触覚への振動刺激は音楽の感じ方にも深く関わっています。音楽をヘッドホンのみで聞かせた場合に比べて、同時に振動刺激を与えると音楽への没頭感や好みが上昇しました(5)。ただし与えた振動刺激は聞かせた音楽と一致した振動を与えることが重要であり、聞いている音楽と不一致な振動刺激は、一致している場合に比べて没頭感や好みを減少させました。
また、意識的には聞こえないような低域の音がライブでの観客のダンスを促すという研究もあります。低音の振動が触覚を通して、人の行動に影響している可能性を示しています(6)。
これらの研究から、例えば自宅で音楽を聴く場合は、身体にどのような振動が与えられるかも気にすることでより楽しめそうですね。
まとめ
このように振動刺激を与えることが、音の感じ方や発話理解、音楽を楽しむことなど、聴覚に関わる様々な側面に影響を及ぼすことが多くの研究により示されています。さらに、振動刺激が耳鳴り(7)や難聴(8)の改善に役立つことを示唆する研究もあります。これらの詳細なメカニズムはまだ不明ですが、将来、聴覚刺激を用いて有効な治療法が確立されることを期待します。
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引用文献
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- Kohler, I., Perrotta, M. V., Ferreira, T., & Eagleman, D. M. (2024). Cross-Modal Sensory Boosting to Improve High-Frequency Hearing Loss: Device Development and Validation. JMIRx Med, 5(1), e49969.
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