オンライン脱抑制:人はなぜオンライン上で「悪」になるのか?

オンライン脱抑制:人はなぜオンライン上で「悪」になるのか?

オンライン脱抑制とは、対面に比べてオンライン環境で人が「抑制を緩め」「普段は言わない/やらないこと」を行いやすくなる現象を指します (1)。本稿では、オンライン脱抑制に関する心理学の知見を紹介します。

オンライン脱抑制の発生メカニズム

オンライン脱抑制について、これまで多く検討・研究されているのは、攻撃的・誹謗中傷・炎上などの「毒性(toxic)」な側面です。心理学者たちは主に下記の観点で、それらの現象の発生原因を説明しています(1)(2)。

  1. Dissociative anonymity(離解的匿名性)
    匿名性や身元の曖昧さにより、自分の発言が「個人」につながらない感覚が生まれ、自分の責任感が弱まる。
  2. Invisibility(不可視性)
    顔や表情が見えないことで非言語的抑止(視線・表情によるブレーキ)が働かなくなる。
  3. Asynchronicity(非同時性)
    やり取りに時間差があるため、相手の即時反応を感じづらく、衝動的に書き込める。
  4. Solipsistic introjection(独自内投影)
    相手の投稿を読む時、相手の声や存在を自分の内側で作り上げてしまい、現実の他者として受け止めにくい。
  5. Dissociative imagination(離解的想像)
    場面を「ゲーム」「別世界」と見なすことで現実的制約を忘れてしまう。
  6. Minimization of authority(権威・規範の軽視))
    対面で受ける規範的な権威(教師・上司など)の影響が減るため、規範違反的行動が出やすい。
  7. さらに、近年の実証的研究(3)では、ストレスや疲労などが原因で個人の情動制御(emotion regulation)が難しい場合、オンライン脱抑制が発生しやすく、それを原因に無礼・攻撃的な(uncivil communication)オンライン発言の増加につながることを示しました。

オンライン脱抑制の「毒性」側面を緩和する方法

  • 個人情報とプライバシーを配慮しながら、匿名性を緩和して責任性を高めること。
  • リアクション(既読・反応・表情アイコン等)や対話のライブ性を高めることで、不可視性と非同時性を緩和すること。
  • 非言語的な抑止を部分的に回復すること・コミュニティの規範・ガイドライン・違反時の明示的処分などを明記・強調し、その上速やかに対応することで、権威・規範の軽視を回復できます。

オンライン脱抑制のポジティブな側面

一方で、オンライン脱抑制は、自己開示が深まる「良性(benign)」な側面もあります。限定的な場面ですが、匿名性と不可視性は感情の表出に有意なポジティブな影響を持っていると証明されました。その結果、ボランティア活動や慈善活動への参加、オンライン支援グループで他人のための有益な情報の提供など親社会的行動を誘発することもできます(4)(5)。そのため、支援コミュニティやヘルスケア相談などの場面で、オンライン脱抑制を活用し、サービスの効果を向上させることができると考えられます。

オンライン脱抑制の知見を活かした社会の対応

コミュニティの主催者やコンサルタントを含め、個人情報を特定できない「匿名」のアカウントを作ることで、上記の匿名性と不可視性を確保します。その上で自分の気持ち・特性などを豊富に表現できる絵文字やアバター(2次元画像や3Dモデルで作られた、自分の分身として使われるキャラクター)を提供することで、相手の投稿を読み上げるだけでなく、音声や動画で「自分とコミュニケーションをしている他人の存在」を強調し、非同時性と独自内投影を緩和します。
その結果、サービス利用者の自己開示が深まり、より自分の感情を表出でき、抱いている問題をより早く発見・解決できると期待できます。

まとめ

インターネットは、現代人にとって情報リソースだけではなく、他の人とコミュニケーションを取るための、もう一つの「社会」になっています。インターネット上の誹謗中傷、炎上などの原因は、オンライン脱抑制にありますが、そのメカニズムを理解し、「毒性」の面を抑え「良性」の面を活かすことで、よりよい社会にすることは可能です。インターネット社会だけに限らず、社会問題の根本には人間の問題がありますが、少なくともインターネット社会では、サービス提供側(企業など)がより良いオンライン環境を築き、誰もが幸せになれるバーチャルコミュニティ作りに、このような知見が有効活用されることを願っています。

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引用文献

  1. Suler J. (2004). The online disinhibition effect. Cyberpsychology & behavior: the impact of the Internet, multimedia and virtual reality on behavior and society, 7(3), 321–326.
    https://doi.org/10.1089/1094931041291295
  2. Lapidot-Lefler, Noam & Barak, Azy. (2012). Effects of anonymity, invisibility, and lack of eye-contact on toxic online disinhibition. Computers in Human Behavior. 28. 434-443.
    https://doi.org/10.1016/j.chb.2011.10.014
  3. Syrjämäki, A.H., Ilves, M., Olsson, T. et al. Online disinhibition mediates the relationship between emotion regulation difficulties and uncivil communication. Sci Rep 14, 30019 (2024).
    https://doi.org/10.1038/s41598-024-81086-7
  4. Lapidot-Lefler, N., & Barak, A. (2015). The benign online disinhibition effect: Could situational factors induce self-disclosure and prosocial behaviors? Cyberpsychology: Journal of Psychosocial Research on Cyberspace, 9(2), Article 3.
    https://doi.org/10.5817/CP2015-2-3
  5. Clark-Gordon, C. V., Bowman, N. D., Goodboy, A. K., & Wright, A. (2019). Anonymity and Online Self-Disclosure: A Meta-Analysis. Communication Reports, 32(2), 98–111.
    https://doi.org/10.1080/08934215.2019.1607516
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