市販ウェアラブルの長期データで健康状態はどこまで分かる? 心拍・HRV・活動リズムの最新研究
コア・サマリー
- ウェアラブルの長期データには、心拍数やHRVの絶対値だけでなく、本人の通常状態からの変化や日内・日間のパターンに関する情報が含まれます。
- 心拍数の日内リズムは朝型・夜型や複数の健康状態と関連し、HRV・睡眠などの個人内変化はメンタルヘルスとも関連していました。
- 慢性疾患では、朝のHR・HRVからその日の症状を予測する研究や、フレアの数週間前から生理指標に変化がみられた研究があります。
- 同じHRVでも、呼吸、姿勢、身体活動、睡眠など測定時の状態によって解釈が変わります。
- 多くは観察研究です。原因の特定、個人への一般化、診断への利用には追加の検証が必要です。
序章:ウェアラブルの長期データがもたらす健康状態の可視化
スマートウォッチや活動量計の普及により、心拍数、心拍変動(HRV)、睡眠、歩数といった生理・行動データを、日常生活の中で数か月から数年にわたって記録できるようになりました。一時点の測定では見えにくい、その人固有のリズム、本人の通常状態からの変化、症状が現れる前の小さな変化を調べられる点が、長期データの特徴です。
例えば、同じ安静時心拍数でも、普段からその値で安定している人と、今週に入って急に上がった人では意味が異なるかもしれません。また、1日の歩数が同じでも、日中に活動して夜間に休む人と、活動が夜遅くに偏る人では、活動の時間的な構造が違います。市販ウェアラブルを使った最近の研究は、こうした違いに着目しています。
本稿では7つの研究を取り上げ、心拍の日内リズム、HRVとメンタルヘルス、慢性疾患の症状悪化、関節リウマチ・炎症性腸疾患のフレア、測定条件、歩数と生物学的老化について解説します。研究で関連が認められたことと、その指標を用いて個人を診断・予測できることは別です。各研究の測定方法と限界もあわせて確認します。
第1章:心拍数の「1日のリズム」から何が分かるのか?
結論: 長期の心拍データから推定した日内リズムには、平均心拍数だけでは表せない「いつ変化するか」という情報が含まれます。朝型・夜型に関わる特徴や健康状態との関連が報告されています。
心拍リズムはどのように求めたのか?
米国のAll of Us Research ProgramのFitbitデータを調べた研究では、十分な記録期間と明瞭な24時間周期性などの条件を満たす31,422人について、心拍数の日内変動を解析しました。記録日数の中央値は344日です。各参加者の心拍データを曜日ごとに5分間隔で集約して1週間の平均パターンを作り、24時間周期のサイン波を当てはめました。
この周期的な変動の時間的な位置を、研究ではHRP(heart rate phase、心拍位相)と名付けています。HRPが大きいほど、心拍のリズム全体が遅い時刻側にずれていることを意味します。平均心拍数が同じ2人でも、日中の上昇や夜間の低下が起こる時刻は異なり得ます。心拍リズムを解析した31,422人の平均HRPは9.48±1.57時間でした。9.48時間(約9時29分)は、当てはめた心拍曲線が、夜間の低い側から日中の高い側へ向かう途中で曲線の中心線を通る時刻です。
朝型・夜型や疾患との関係は?
全ゲノムデータが利用できた22,653人の解析では、HRPと、朝型・夜型に関係する遺伝子変異との関連が示唆されました。心拍リズムが生活習慣だけで決まるのではなく、クロノタイプに関わる生物学的な違いも一部反映している可能性があります。
健康状態との関連を調べた解析では、HRPが遅い人ほど、睡眠障害、気分障害、依存関連疾患、代謝疾患などを持つ割合が高い傾向でした。2型糖尿病では、HRPが1時間遅いごとにオッズが約9%高いという結果です。過去1~2か月の血糖状態を反映するHbA1cの上昇や、より若い年齢での2型糖尿病の診断との関連も報告されました。この解析では週間歩数なども統計的に調整されています。
この結果をどう解釈するか?
心拍数は概日リズムだけでなく、活動、睡眠、食事、姿勢、ストレス、自律神経活動、すでにある病気などにも影響されます。HRPの遅れが疾患を引き起こすのか、疾患や生活の変化を反映しているのかは、この結果だけで確定できません。 HRPを変える介入で健康状態が改善するかも、別途検証が必要です。それでも、長期データから心拍の「高さ」に加えて「時刻のパターン」を評価する意義を示しています。
第2章:HRVや睡眠の変化からメンタルヘルスは分かるのか?
結論: HRV、安静時心拍数、睡眠などとメンタルヘルスには関連がありました。人同士の差だけでなく、同じ人の中での変化にも情報が含まれます。ただし、指標が変わった後にメンタル状態が悪化すると証明されたわけではありません。
人同士の違いと本人内の変化を分けて調べた研究
ウェアラブル(WHOOP)利用者を対象とする13か月の研究では、181,574人が対象候補となり、最大で約794万日分のウェアラブル記録が解析されました。参加者には毎月質問票が配信され、抑うつ、不安、ストレスが評価されました。リストバンドの光学式センサー(PPG)や加速度センサーから、安静時心拍数(RHR)、HRV、呼吸数、睡眠、身体活動などが算出されています。HRVには、睡眠中の心拍間隔を使ったRMSSDが用いられました。
解析の特徴は、「HRVが高い人と低い人の違い」と、「ある人が普段よりHRVの高い時期と低い時期の違い」を分けたことです。抑うつと不安には回答前14日間、ストレスには回答前28日間のデータを対応づけました。個人内の解析には、少なくとも8回の質問票に回答した約3,200人が含まれます。
HRV、睡眠、メンタル状態はどう関連したのか?
人同士を比べると、睡眠時間が長く、睡眠効率や睡眠の規則性が高い人ほど、抑うつ、不安、ストレスが低い傾向でした。平均HRVが高く、RHR、呼吸数、HRVの日々の変動が小さい人も、概してメンタルヘルスの評価が良好でした。身体活動量の多さにも同様の関連がみられています。
同じ人の中でも、普段よりHRVが高く、RHRや呼吸数が低い時期には、メンタルヘルスの評価が良い傾向でした。ここから分かるのは、HRVの絶対値だけを人同士で比較するより、本人の通常状態からの変化を追うことで別の情報が得られる可能性です。ただし、同時期に一緒に変わるという関連だけで、どちらが原因かは分かりません。
比較の仕方で結果が逆になる例
睡眠時間と抑うつの関係は特に示唆的です。人同士では睡眠時間が長い人ほど抑うつスコアが低い傾向だった一方、同じ人の中では普段より長く眠る時期に抑うつスコアが高いという逆方向の関連がみられました。不安とストレスについては、睡眠時間の個人間と個人内の関連は同じ方向でした。著者らは、睡眠が長くなること自体が抑うつ症状として現れる可能性などを挙げています。
ストレスと生理指標は、どちらが先に変化したのか?
時間の前後関係を調べた解析では、ストレスが高い状態は、その後の平均HRV低下、RHR上昇、呼吸数上昇、睡眠時間のばらつき増加に先行していました。一方、先に起きた生理指標の変化が、その後のメンタルヘルス変化を有意に予測する関係は確認されませんでした。
この結果は、「HRVが下がったら、次にストレスが高まる」と単純に予告できるわけではないことを示します。ただし、質問票は過去2~4週間の振り返りで、生理指標も複数週間に集約されています。数時間から数日の短い時間スケールでの双方向の関係は捉えきれていない可能性があります。購入できる人に対象が偏ること、自己申告の記憶による誤差、環境要因や月経周期などを十分に扱えていないことにも注意が必要です。
第3章:朝のHRVで、その日の症状悪化を予測できるのか?
結論: コロナ後遺症やME/CFSなどの慢性疾患がある人では、朝のHRVが本人の通常値より低く、心拍数が高い日に、夕方の症状が悪い傾向でした。予測モデルへの上乗せ効果はありましたが、改善幅は小さく、実用的な警報としての検証はこれからです。
朝と夕方に何を測ったのか?
コロナ後遺症(Long COVID)、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、その他の活動制限を伴う慢性疾患では、比較的安定した状態から急に症状が悪化することがあります。こうした悪化は「クラッシュ」や「フレアアップ」と呼ばれます。2026年の研究は、朝に測った生理指標が、同じ日の夕方の症状と関係するかを調べました。
対象は4,244人です。参加者は毎朝、スマートフォンのカメラまたはPolar Verity Senseを使って60秒間のPPG測定を行い、心拍数(HR)、HRV、呼吸数を記録しました。研究で使用したHRVはRMSSDに基づく0~100のスコアでした。夕方にはクラッシュ、疲労、ブレインフォグの程度を自己報告しました。1人あたりの生理計測回数の中央値は125回です。
「いつもの自分」と比べると何が見えたのか?
解析では、人によって異なる長期平均と、同じ人のその日の値が通常状態からどれだけずれたかを分け、前日の症状も考慮しました。本人の平均と比べて朝のHRVが低く、心拍数が高い日は、その日の夕方のクラッシュ、疲労、ブレインフォグが悪い傾向でした。直近7日間のHRやHRVの変動が大きいときにも、症状との関連がみられました。呼吸数の寄与は相対的に小さい結果です。
人同士の比較では、長期平均HRVが低い人ほどクラッシュが多い傾向はあったものの、疲労やブレインフォグとの関係は一貫していませんでした。一方、「今日は自分の普段よりHRVが低い」「今日は心拍数が高い」という個人内の変化は、3つの症状に共通して関係しました。
実際の予測性能はどれくらい改善したのか?
研究では、参加者ごとに過去のデータで学習し、その後の時点を評価する時間順の交差検証も行っています。前日の症状だけを使う場合と、そこに朝の生理指標を加える場合のROC-AUCは次のとおりです。
| 夕方に評価した症状 | 前日の症状のみ | 前日の症状+朝の生理指標 |
|---|---|---|
| クラッシュ | 0.78 | 0.81 |
| 疲労 | 0.73 | 0.75 |
| ブレインフォグ | 0.83 | 0.85 |
ROC-AUCは、症状が強い場合とそうでない場合をモデルがどの程度区別できるかを表す指標です。朝の生理指標は追加情報を与えましたが、改善幅は小さいものでした。F1スコアなど一部の指標では改善がみられず、クラッシュとブレインフォグのF1は前日の症状のみのモデルの方がやや高い結果でした。「HRVを追加すれば症状を高精度で予告できる」という段階ではありません。 同じ参加者の将来時点を評価した結果であり、別の集団や初めて使う人への適用にはさらなる検証が必要です。
第4章:ウェアラブルはフレアの数週間前の変化を捉えられるのか?
結論: 関節リウマチと炎症性腸疾患では、症状や炎症の悪化が確認される前から、心拍・HRV・歩数などに変化が観察されました。ただし、研究中にフレア前のデータを識別できたことと、臨床現場で将来のフレアを確実に予告できることは同じではありません。
関節リウマチ:最大4週間前からの変化
関節リウマチ(RA)は関節に痛み、腫れ、こわばりなどが生じる慢性炎症性疾患です。研究では、本人が症状の悪化を感じる症候性フレアと、検査で炎症の高まりが確認される炎症性フレアの双方に着目しました。両者は必ずしも同時に起こらないため、分けて評価する意味があります。
53人のRA患者がApple Watch、Fitbit、Oura Ringを平均154日使用し、合計8,183日、約14.3万時間のデータが集められました。心拍数(HR)、安静時心拍数(RHR)、HRV、歩数が解析されています。症候性フレアの時期には、寛解期と比べて心拍やHRVの日内パターンなどに違いがあり、歩数も少ない傾向でした。
さらに研究では、フレア当日だけでなく7、14、21、28日前の指標を調べました。複数の生理指標を組み合わせたモデルの28日前のF1スコアは、炎症性フレアで0.95、症候性フレアで0.93でした。F1スコアは0から1までの値で、1に近いほど、フレアの見逃しと誤検出の両方を抑えて判別できていることを示します。この結果は、ウェアラブルのデータからフレアの数週間前に変化を捉えられる可能性を示しています。ただし、今回の高い性能は53人を対象とした研究の評価条件で得られたものであり、異なる患者集団や機器でも同様に28日前から予測できるかは、今後の検証が必要です。
炎症性腸疾患:最大7週間前の変化
炎症性腸疾患(IBD)は、クローン病と潰瘍性大腸炎を含み、再燃と寛解を繰り返します。別の研究には309人が参加し、その内訳はクローン病196人、潰瘍性大腸炎113人でした。平均追跡期間は213日です。Apple Watch、Fitbit、Oura RingによるHR、RHR、HRV(SDNNやRMSSD)、歩数が継続的に記録されました。
炎症性フレアや症候性フレアの時期は寛解期と生理指標の値やパターンが異なり、一部の変化はフレアの最大7週間前から観察されました。フレア前の兆候が見つかることは、受診間隔の長い疾患管理では有用な可能性があります。一方、症状や検査結果と組み合わせたときの実際の予測価値、偽警報の頻度、異なる機器間での一貫性は、実用化に向けて評価すべき点です。
第5章:HRVは測定条件をそろえると役立つのか?
結論: 測定時刻をそろえたり睡眠中の測定に限定したりするだけでは、疾患を見分ける性能は改善しませんでした。一方、ガイド付き深呼吸中のHRVでは、検討した複数の疾患の判別性能が改善しました。
日常生活で測るHRVには何が混ざるのか?
HRVは心拍間隔の変動から求める指標ですが、疾患だけに反応するものではありません。時刻、姿勢、活動、睡眠、呼吸の速さや深さ、精神状態などで変化します。受動的に取得したHRVを疾患のある人とない人で比較すると、測定条件の違いが結果に混ざる可能性があります。
そこでApple Heart and Movement Studyのデータを用いた研究は、Apple WatchのPPGから取得された約1分間のHRV(SDNN)について、測定時の状況をそろえると情報量が変わるかを調べました。対象は冠動脈疾患、糖尿病、急性冠症候群、心不全、高コレステロール血症、高血圧、末梢動脈疾患の7疾患です。
特定の時刻や睡眠中に限定すると改善するのか?
84,594人を対象に、HRVが低くなりやすい夕方の測定値と、覚醒中のランダムな時刻の値を比較しても、疾患判別性能は改善しませんでした。83,492人を対象に睡眠中と覚醒中のHRVを比べても、睡眠中に限定することによる改善はみられませんでした。HRVの水準が比較的安定しそうな時間や状態を選ぶだけでは、必ずしも疾患に関する情報が増えるわけではない、という結果です。
ガイド付き深呼吸ではなぜ違ったのか?
一方、54,548人について、ガイド付き深呼吸を伴うマインドフルネス中のHRVと、ほぼ同時刻の通常時HRVを比較すると、検討した7疾患すべてで疾患判別性能が改善しました。とくに心不全では大きな改善が報告されています。ただし、統計的に改善したことと、その差がどの疾患でも臨床的に十分大きいことは同義ではありません。
著者らは、呼吸の仕方などがある程度そろうことで、普段の測定に含まれるばらつきが減り、疾患と関係する違いが見えやすくなった可能性を挙げています。これは、安静時の値を観察するだけでなく、短時間の標準化された操作に対する生理反応を見るという発想にもつながります。ただし、この研究だけでは、どの要素が改善に寄与したかを特定できません。
第6章:歩数の長期データから生物学的老化は分かるのか?
結論: 歩数の合計に加え、いつ活動し、いつ休むかという24時間の活動パターンにも、生物学的老化の指標と関係する情報が含まれていました。
歩数から「活動リズム」をどう調べたのか?
米国のAll of Us Research ProgramのFitbitデータを使った研究では、2,222人を対象に、平均6.84年の追跡期間にわたる活動記録と生物学的年齢の関係が解析されました。生物学的年齢には、9種類の臨床バイオマーカーと暦年齢などから求めるPhenoAge(フェノエイジ)が用いられました。PhenoAgeは「体の正確な年齢」を直接測る時計ではなく、健康状態に関連する複数の検査値を統合した指標です。
歩数から、24時間の平均活動量、リズムの振幅、活動ピークの時刻、最も活動的な連続10時間(M10)、最も活動が少ない連続5時間(L5)、昼夜のメリハリを表すRelative Amplitude(RA)、日ごとの規則性などを計算しました。単純な歩数合計だけでなく、活動波形の形やタイミングも評価した点が特徴です。
老化の指標との間にどんな関連があったのか?
生物学的老化が進んでいる人では、日中の活動が少なく、夜間の活動が多く、活動ピークが遅い傾向でした。一方、老化の指標が良好な人では、昼間に活動し夜間に休む、より明瞭な24時間リズムがみられました。人同士の比較に加え、同じ人の中で活動リズムがより明瞭になる変化も、PhenoAgeが遅い方向への変化と関連しました。中高強度の身体活動や睡眠関連指標を考慮しても、関連は残りました。
これは「活動リズムを整えれば老化を遅らせられる」ことの証明ではありません。健康状態が良いことによって昼夜のリズムが整いやすいなど、逆方向の説明も考えられます。それでも、「何歩歩いたか」と同時に「いつ動き、いつ休んだか」を分析する意義が示されました。
第7章:長期データをどう読むべきか(解釈の指針)
今回の研究には、心拍の位相のような日内リズム、メンタルヘルスや慢性疾患に関わる本人内の変化、フレア前の数週間にわたる推移、測定条件をそろえたときの反応の違いという共通点があります。日々の数値を一つずつ見るだけでは捉えにくい情報です。
長期の記録によって、本人固有の通常値とその揺れ幅、変化の持続、昼夜や週単位のパターンを定義しやすくなります。そのうえで、実際に健康状態を評価するなら、測定時刻、睡眠、活動、発熱、服薬、機器や装着状態など、その値に影響し得る状況も検討する必要があります。
市販機器で得られるHRVは機種や測定条件によって算出方法が異なり、すべてを同じ値として扱えるわけではありません。また、今回取り上げた多くの研究は観察研究です。ウェアラブルで捉えた変化が疾患や症状の原因なのか、健康状態の変化を反映した結果なのかは十分に決まっていません。研究で示されたモデルの性能をそのまま別の集団や機器に当てはめることもできません。
現時点で、市販ウェアラブルだけから病気を診断したり、個人の症状悪化を確実に予測したりすることはできません。それでも、「正常範囲かどうか」に加えて「その人の普段からどれだけ、どの方向に、どれくらいの期間変化したか」を見ることは、長期データを健康モニタリングに生かすための重要な視点です。
第8章:想定クエリ別 Q&Aナレッジベース(よくある質問)
HRVが低いと健康状態が悪いのですか?
単純には判断できません。HRVには大きな個人差があり、睡眠、活動、呼吸、姿勢、測定時刻、測定方法でも変動します。研究で使われた指標にもRMSSDとSDNNなどの違いがあります。数値を一度だけ見て判断するより、同じ条件で記録した本人の通常値と比べ、体調や測定状況も確認することが大切です。
ウェアラブルだけで病気を診断できますか?
この記事で紹介した研究は、ウェアラブル指標と症状・疾患との関連や、研究集団内での予測可能性を検討したものです。機器の値だけで個人の病名を確定することはできません。健康上の気になる症状がある場合、ウェアラブルの数値だけを根拠に判断せず、医療機関に相談してください。
なぜ本人の平均値と比較するのですか?
心拍数やHRVの通常値は人によって異なるためです。たとえば、「今日はいつもより心拍数が高い」「今週はHRVの変動が大きい」という情報は、集団平均との差だけでは見えにくい場合があります。もっとも、本人の基準値も生活習慣や測定条件とともに変化するため、比較期間や測定状況を明らかにして解釈する必要があります。
長期間の記録にはどんな意味がありますか?
普段の水準や揺れ幅、日内・日間のリズム、変化が続く期間を把握しやすくなります。今回紹介した研究では、数か月から数年の記録を使い、心拍の日内位相、活動リズム、本人内の変化、フレア前の推移などが分析されました。ただし、単に記録期間が長ければよいわけではなく、欠測や機器の変更、測定条件の違いも考慮する必要があります。
HRVはいつ測っても同じですか?
同じではありません。呼吸、姿勢、睡眠、活動、時刻などが影響します。紹介した研究では、夕方や睡眠中に限定するだけでは疾患の判別性能は改善しませんでしたが、ガイド付き深呼吸中のHRVでは改善がみられました。何の指標を、どの状態で、どの機器で測ったかをそろえて比較することが重要です。
第9章:参考文献
- Chan ZM, et al. Heart rate phase is an indicator of chronotype-relevant circadian shifts associated with human disease: an All of Us Research Program analysis. The Journal of Physiology. 2026;604:3282–3296.
- Presby D, et al. Inter- and Intrapersonal Associations Between Physiology and Mental Health: A Longitudinal Study Using Wearables and Mental Health Surveys. Journal of Medical Internet Research. 2025;27:e64955.
- Aitken A, et al. Digital physiological biomarkers predict within-person symptom changes in complex chronic illness. npj Digital Medicine. 2026;9:257.
- Sharma P, et al. Wearable devices detect physiological changes that precede and are associated with symptomatic and inflammatory rheumatoid arthritis flares. Scientific Reports. 2026;16:318.
- Hirten RP, et al. Physiological Data Collected From Wearable Devices Identify and Predict Inflammatory Bowel Disease Flares. Gastroenterology. 2025;168:939–951.e5.
- Truslow J, et al. External conditioning of data collection enhances the information content from wearable sensors. npj Cardiovascular Health. 2026;3:47.
- Shim J, Onnela JP. Longitudinal digital phenotyping of activity rhythms and biological aging using commercial wearables. Nature Communications. 2026;17:10155.

