皆さんは、日常生活の中で突然「これだ!」とひらめいたことはありませんか?たとえば、シャワーを浴びている時や、寝る前のリラックスした瞬間、または散歩中に思わぬアイデアが浮かんだ経験があるかもしれません。このような瞬間、私たちの脳ではどのようなことが起こっているのでしょうか?創造性は、芸術や科学の分野だけでなく、仕事や日常生活のあらゆる場面で重要な役割を果たします。今回は、創造性を支える脳のメカニズムと、その力を引き出すための方法について、最新の研究を交えながら探ってみたいと思います。

創造性とは何か

創造性とは、既存の要素やアイデアを新しい形で組み合わせ、新たな価値や解決策を生み出す能力です。この能力は、芸術的な表現だけにとどまらず、ビジネスや日常生活の課題解決においても非常に重要です。たとえば、料理をしている時に冷蔵庫の余り物で新しいレシピを考えたり、仕事で新しいプレゼンテーション方法を考え出したりすることも、創造的な行動の一例です。

創造性には、二つの主要な側面があります。一つは「発散的思考」で、これは多くの選択肢やアイデアを生み出す能力です。もう一つは「収束的思考」で、これは複数のアイデアから最適な解決策を選び出す能力です。この二つが組み合わさることで、真に革新的な価値や解決策が生まれます(1)。

創造性を生み出す脳の働き

創造性に関連する脳の働きは、主に実行制御ネットワーク(Executive Control Network:ECN)という前頭前野と頭頂葉のネットワークと、デフォルトモードネットワーク(Default mode network:DMN)に関係しています(DMNについては、コラム:「心のさまよい:マインドワンダリングの不思議な力」もご覧ください)。脳の実行制御ネットワークは、計画や意思決定を司る部分であり、複雑な問題解決や新しいアイデアの創出において重要な役割を果たします。一方で、DMNは、内省や自由連想、そして自発的な思考を司る脳のネットワークで、意識がリラックスしている時に特に活性化します(2)。

最近の研究では、これらの脳領域がどのように連携して創造性を生み出しているかがさらに詳しく解明されています。例えば、アメリカの著名な創造性研究者であるBeatyらの研究(3)では、創造的なアイデアを生み出すには,DMNとECNの切り替えが重要であり、自由な発想と論理的な整理を交互に行うことで、新たなアイデアの創出を促進することが示されています。また、DMNもECNも、好奇心に関わる脳内ネットワークであることが知られており(4)、新しいことに興味を持ち、これまで経験したことがないようなことも抵抗なく受け入れるような姿勢が創造性を発揮するのに必要であるとされています。

創造性を妨げる要因

創造性を発揮することが難しくなる要因は、さまざまな形で私たちの生活に影響を与えています。以下に、代表的な要因をいくつか取り上げます。

  1. 過度のストレス
    過度のストレスは、前頭前野の機能を低下させ、創造的な思考を阻害する大きな要因です。ストレスを感じていると、脳はサバイバルモードに入り、短期的な問題解決に集中するため、長期的で革新的な思考が難しくなります。極限状況でのストレスは創造性に悪影響を及ぼします(5)。
  2. デジタル依存と情報過多
    スマートフォンやSNSなど、常に情報にアクセスできる環境は、便利である一方で、脳に過剰な負担をかけることがあります。情報過多の状態では、脳が十分に休息できず、DMNの活動が抑制され(6)、創造性を発揮するための脳のリソースが活用できなくなります。これにより、創造的な発想が生まれにくくなる可能性があります。
  3. 環境の単調さ
    単調な環境や繰り返し作業が続くと、脳が刺激を受けなくなり、創造的なアイデアを生み出すことが難しくなります。Eysenckは、創造性を発揮するためには、適度な環境の変化や新しい刺激が必要であることを示しています(7)。これにより、脳は新しい視点を取り入れ、異なる情報を組み合わせる力が強まります。
  4. 自己批判と完璧主義
    自己批判や完璧主義も、創造性を妨げる要因となります。自分のアイデアを批判的に評価しすぎると、新しい発想を試す前にその可能性を否定してしまうことがあります。これは、創造的な思考のプロセスを妨げ、既存の枠にとらわれた発想に留まる原因となります(8,9)。

創造性を高めるための具体的なアプローチ

創造性を高めるためには、いくつかの日常的なアプローチがあります。まず、コラム:「心のさまよい:マインドワンダリングの不思議な力」でもご紹介した「マインドワンダリング」を意図的に促進することが有効です。マインドワンダリングとは、今やっていることとは関係ないことを意図せずに考えてしまうことですが、意識的な注意が解放され、自由な連想が行われやすい状態と言えます。先行研究では、マインドワンダリングを促すことで創造的な問題解決能力が向上することが示されています(10)。たとえば、シャワーを浴びる時や、リラックスしている時などのふとした瞬間にアイデアが浮かぶのは、まさにこのマインドワンダリングが働いているからです。

また、瞑想やマインドフルネスも創造性を高める効果があります。瞑想は、脳をリラックスさせ、DMNの活動を促進することで、創造的なアイデアが生まれやすい状態を作り出します(11)。Müllerらの研究では、瞑想が認知的柔軟性(柔軟に物事を考える能力)を向上させ、これが創造的な思考を支える基盤になることが示されています(12)。
ある企業のチームが、新しい製品のコンセプトを考える際に、普段とは異なる場所でブレインストーミングを行ったところ、斬新なアイデアが次々と生まれたという事例があります(13)。これは、環境を変えることで脳が新たな刺激を受け、創造的な発想が促進されたためと考えられます。

まとめ

創造性は、私たちの生活を豊かにする大切な能力です。さまざまな脳内ネットワークが連携することで、新しいアイデアや解決策が生まれます。しかし、ストレスや過度の情報負荷、環境の単調さや自己批判など、われわれを取り巻く現代社会の要因や個人的な要因が創造性を阻害することもあります。日常生活の中で、マインドワンダリングや瞑想などを積極的に活用することで、創造性を高めることができます。これからの生活において、さまざまな工夫を取り入れ、創造的な人生にしていきましょう。

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引用文献

  1. Zhang, W., Sjoerds, Z., & Hommel, B. (2020). Metacontrol of human creativity: The neurocognitive mechanisms of convergent and divergent thinking. NeuroImage, 210, 116572.
    https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2020.116572
  2. Andrews-Hanna, J. R., Reidler, J. S., Huang, C., & Buckner, R. L. (2010). Evidence for the default network’s role in spontaneous cognition. Journal of neurophysiology, 104(1), 322-335.
    https://doi.org/10.1152/jn.00830.2009
  3. Lloyd-Cox, J., Chen, Q., & Beaty, R. E. (2022). The time course of creativity: Multivariate classification of default and executive network contributions to creative cognition over time. Cortex, 156, 90-105.
    https://doi.org/10.1016/j.cortex.2022.08.008
  4. Ivancovsky, T., Baror, S., & Bar, M. (2024). A shared novelty-seeking basis for creativity and curiosity. Behavioral and Brain Sciences, 47, e89.
    https://doi.org/10.1017/S0140525X23002807
  5. Vartanian, O., Saint, S. A., Herz, N., & Suedfeld, P. (2020). The creative brain under stress: Considerations for performance in extreme environments. Frontiers in Psychology, 11, 585969.
    https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.585969
  6. Siste, K., Pandelaki, J., Miyata, J., Oishi, N., Tsurumi, K., Fujiwara, H., … & Firdaus, K. K. (2022). Altered Resting-State Network in Adolescents with Problematic Internet Use. Journal of Clinical Medicine, 11(19), 5838.
    https://doi.org/10.3390/jcm11195838
  7. Eysenck, H. J. (1995). Creativity as a product of intelligence and personality. In International handbook of personality and intelligence (pp. 231-247). Boston, MA: Springer US.
  8. Zabelina, D. L., & Robinson, M. D. (2010). Don’t be so hard on yourself: Self-compassion facilitates creative originality among self-judgmental individuals. Creativity Research Journal, 22(3), 288-293.
    https://doi.org/10.1080/10400419.2010.503538
  9. Goulet‐Pelletier, J. C., Gaudreau, P., & Cousineau, D. (2022). Is perfectionism a killer of creative thinking? A test of the model of excellencism and perfectionism. British Journal of Psychology, 113(1), 176-207.
    https://doi.org/10.1111/bjop.12530
  10. Baird, B., Smallwood, J., Mrazek, M. D., Kam, J. W., Franklin, M. S., & Schooler, J. W. (2012). Inspired by distraction: Mind wandering facilitates creative incubation. Psychological science, 23(10), 1117-1122.
    https://doi.org/10.1177/0956797612446024
  11. Hughes, Z., Ball, L. J., Richardson, C., & Judge, J. (2023). A meta-analytical review of the impact of mindfulness on creativity: Framing current lines of research and defining moderator variables. Psychonomic Bulletin & Review, 30(6), 2155-2186.
    https://doi.org/10.3758/s13423-023-02327-w
  12. Müller, B. C., Gerasimova, A., & Ritter, S. M. (2016). Concentrative meditation influences creativity by increasing cognitive flexibility. Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, 10(3), 278.
    https://doi.org/10.1037/a0040335
  13. Csikszentmihalyi, M. (1997) Creativity: Flow and the Psychology of Discovery and Invention. Harper Collins, New York.
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