インターネット詐欺の心理学

インターネットを利用していると、電子メールやSNS等で様々な詐欺メッセージが届きます。大抵の場合はメッセージの内容や文脈から怪しさに気づき無視や削除しますが、中には詐欺に引っかかってしまう人もいます。詐欺メッセージに引っかかるかどうかは様々な心理的な要因が関係していると考えられます。普段は詐欺に遭わない人も、詐欺メッセージを受け取った状況や、複数の要因が組み合わさった場合に詐欺に気づかず被害者になることは起こり得ます。ここでは、詐欺メッセージに関わるどのような心理的な要因が、詐欺に引っかかるかどうかに影響しているかを紹介します。
詐欺被害の心理的要因
インターネット詐欺に引っかかる心理的な原因として以下の3つの要因があると言われています(1)。
- メッセージ要因(Message Factors)
高報酬による誘惑、公式の通知やロゴを使った信頼感、機会の希少性、緊急性などの詐欺メッセージに仕組まれた要因は受信者の心理に影響し詐欺に引っかかりやすくなります。このようなメッセージの内容と個人特性との相互作用により詐欺に引っかかってしまうと言われています。
例えば、送信元の信頼性を高く装ったメッセージは特定の人物をターゲットとしたフィッシング詐欺攻撃に特に効果的であると言われています。他にも緊急性を煽り素早い反応を求めるような切迫したメッセージは、より反応される可能性が高くなるようです。このような直感や感情に訴えるメッセージは、受け取った人がそのメッセージの信憑性を評価する努力を減少させると考えられ、詐欺被害を発生させやすくします。
さらに、詐欺メッセージをスマートフォンで受信した場合、反応してしまう可能性がより高くなると言われています。スマホ利用による認知的負荷の増加や、小さい画面での表示、移動中に断続的にメール対応するといった習慣によって、届いたメッセージに対する信頼性評価の処理が損なわれてしまうからだと考えられます。 - 経験要因(Experiential Factors)
基本的に、コンピュータやインターネットの使用経験や専門知識が高い人は詐欺メッセージに反応する可能性は低くなると言われています。ただし、使用スタイルによっては詐欺に対して脆弱になる場合があります。例えば、大量のメールに対応しなくてはならない人は詐欺メッセージに反応してしまう傾向があるようです。 - 気質・性格要因(Dispositional Factors)
人の気質や性格も詐欺メッセージに反応するかに影響しているようです。衝動的に動く人やセルフコントロールが低い人は詐欺被害を受けやすく、金銭的な報酬をちらつかせる詐欺などに引っかかることがあります。他にも神経症傾向が強い人 は詐欺に引っかかりやすく、一方で誠実性が高い人は詐欺の被害を受けにくいと言われています。
また、ビッグファイブ性格特性で測定した「経験への解放性」が低い人や「内向性」が高い人は、本物の正しいメールを削除してしまう傾向があるようです。これらの人は詐欺に引っかかる可能性は低くなりますが、結果として本当のコミュ二ケーションの機会を失ってしまうことがあります。
ただし、性格と詐欺被害を受けやすいかの関係性は複雑で状況によって一貫していない場合もあり、さらなる研究が待ち望まれます。
詐欺メッセージと感情状態
詐欺メールには、大きく分けて不安を煽るものと報酬をちらつかせるものがあります(2)。前者は例えば、受信者の銀行口座が停止状態になったので回復するためにクリックを要求するような内容で、後者はクリックすることにより報酬や特別なチャンスを受け取ることができるような内容です。研究によると不安を煽るメールの方がより信頼性が高く、反応すると回答する参加者が多くいたそうです。このような不安を煽るメールには「警告」「最終期限」などのようなメッセージが使われ受信者の感情的な反応を誘引します。そのような感情的な反応は、受信者に早急に対応しなくてはいけないと思わせ、さらに合理的な判断過程を鈍らせメッセージに含まれる怪しい部分を見落とさせてしまいます。
また、詐欺メールに引っかかるかは、そのメッセージを受け取った際の受信者の感情状態も影響すると言われています。例えば、ポジティブな気分の時には受け取ったメッセージを注意深く精査せず信じやすく、逆にネガティブな気分のときは疑り深くなり怪しい部分を見つけやすくなるようです。
さらに、詐欺メッセージが持つポジティブ・ネガティブ要素と、受け取った本人のそのときの感情状態の相互作用も詐欺に引っかかるかに関係していると考えられます。例えば、受信者の気分がネガティブな状態の時に、報酬が得られるようなポジティブ要素が高い詐欺メールを受け取ると、本人のネガティブ気分を打ち消したいため詐欺に引っかかってしまう可能性があると言われています。
しかし、詐欺メッセージや受信者のそれぞれのポジティブ・ネガティブ要素やその相互作用は、様々な要因が関わり複雑であるため解釈が難しく、より精緻な研究を進める必要がありそうです。
まとめ
このように、詐欺メッセージに引っかかるかには様々な要因が関わってきます。自分は大丈夫だと思っていても、詐欺師は本人も気づいていないような心理的な穴を狙って攻撃してきます。詐欺の被害者にならないためにも、このような詐欺に関わる心理的な要因や作用を知り、落ち着いて詐欺メッセージに対応できるように普段から心構えをしておこう!
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引用文献
- Norris, G., Brookes, A., & Dowell, D. (2019). The psychology of internet fraud victimisation: A systematic review. Journal of Police and Criminal Psychology, 34(3), 231-245.
- Norris, G., & Brookes, A. (2021). Personality, emotion and individual differences in response to online fraud. Personality and Individual Differences, 169, 109847.
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