会議前の60秒の瞑想だけで心がととのう

会議前の60秒の瞑想だけで心がととのう

会議の直前、心拍が少し速くなる——そんな「高ぶり」は誰にでもあります。そのまま会議に入ると、声がうわずる、余計なことを言ってしまう、要点を忘れる……といったミスが増えがちです。会議の前にたった60秒だけ、姿勢を正して、吐く息を少し長めにして呼吸へ注意を向けてみましょう。心も身体もコントロールしやすくなります。実際、病院の外来診療の待ち時間に60秒の呼吸を意識したマインドフルネス瞑想を行うと、直後の不安、怒り、抑うつといった気分や、身体の痛みが下がったという研究があります(1)。また、300人以上の子どもを対象とした研究では、60秒の深呼吸を促すビデオを見てもらうだけで、心拍が落ちつき、身体がリラックス状態になることが示されています(2)。さらには、ウェアラブル端末を使って心拍変動が一時的に低下し、緊張状態になったその瞬間に、1分間のマインドフルネス瞑想を促すプッシュ配信する実験では、心理的なストレスが下がり、瞑想の10分後まで心拍変動が上昇し、リラックス状態が維持されました(3)。このコラムでは、会議や試験などの直前でも効く短時間瞑想の科学的根拠と、すぐ使える短時間瞑想プロトコルを解説していきます。

短時間の瞑想でも心がととのう理由

冒頭でお話しした短時間の瞑想は、通常の瞑想(10〜20分など)からエッセンスを抽出し、60秒ほどに凝縮したものです。狙いは、緊張状態に傾いた交感神経の過活動を下げ、短時間で副交感神経優位に切り替えリラックス状態へのスイッチを入れることです。このとき鍵になるのが「ゆっくりした呼吸」です。呼吸を1分あたり約6回ほどに落とすと、呼吸と心拍が共鳴しやすく、心拍変動が調整され、副交感神経が働きやすい状態になるのです(4)。
また、短時間の瞑想で、脳活動も変わることが脳科学研究によって示されています。呼吸に集中する瞑想を50秒間行っている際の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)という方法で計測した研究では、注意や自己を調整する機能に関連した前帯状皮質などの脳領域が活性化することが明らかになっています(5)。この前帯状皮質は自律神経系の活動を調整することも知られています(6)。これらのことから、短時間でも瞑想することにより前帯状皮質が活性化し、自律神経にブレーキ信号を送り、緊張・リラックスの波を穏やかにすると考えられます。その結果、心がととのい、会議中の発言や判断の安定などに繋がるわけです。

会議前60秒の瞑想プロトコル

会議室の前で資料を見直していると、胸が浅く速く動き始める——そんなときこそ「60秒間の余白」を入れます。ここでは一人で静かに実施できるプロトコルの一例を示します。ポイントは、姿勢→呼吸→意図づけの順で過度な緊張状態を一段下げることです。

<60秒の瞑想プロトコル:一人用タイムライン>
0–5秒
姿勢を整える:椅子に浅く座り、足裏を床に接地します、背筋をやさしく伸ばし、肩と顎の力を抜く。姿勢の安定は、この後の呼吸ペースを保ちやすくします。

5–55秒
呼吸に集中する:鼻から6秒吐いて、4秒吸う——吐く息をやや長めにして、この10秒1呼吸を5回程度繰り返します。ゆっくりした呼吸(およそ1分あたり6呼吸のペース)は、心拍変動を高めて副交感神経が働きやすい状態をつくります(4)。注意を向ける対象は呼吸にのみ置いて、他のことを考えているのに気づいたら、「考え」と短くラベルして呼吸へ戻りましょう。

55–60秒
意図づけ:「要点から話す」「まず相手の意図を聴く」など、その会議の方針を心の中で短く唱えます。

姿勢を安定させ、呼吸で自律神経のブレーキを入れた上で、会議へ向き合う——この流れが60秒の中でできる最短コースです。呼吸の後半で効果が強まるという報告もあり(2)、5〜55秒の“ゆっくり呼吸ゾーン”をしっかり確保する構成にしています。マスク着用時や持病がある場合は、無理に深く呼吸をしないようにしましょう。吐くのをやや長く保つだけで十分です。終わったら自然呼吸に戻し、ふっと視野を広げてから発言に入る——これで心のととのいが完了です。
カレンダー通知を「会議開始の60秒前」に設定し、音が鳴ったら瞑想プロトコルを開始するなどの継続のためのトリガーを仕込むのも忘れずに。

その場で測れる“ととのった心”の客観指標

会議前の短時間瞑想で、「心がととのった気がする」けれど、本当に交感神経の高ぶりが下がったのかは、その場では分かりにくいかもしれません。この“気がする”と実際の心身の状態を繋いで、しっかりと習慣化していくためには、「ととのった心」を測る客観的指標を用いることも有効な手段と言えます。短時間瞑想の効果は、その場の文脈(眠気、カフェイン、直前の移動や発話、室温など)にも左右されます。だからこそ、その場で、自分に起きた心身の変化を簡便な指標で押さえておくことに価値があります。

ここでは、交感神経と副交感神経の“ゆらぎ”をみる代表指標である心拍変動をご紹介します。胸ストラップ型の心拍センサーなどを使うと、体に電極を当てて心電図を測定することができます。心電図では、心臓が拍動するたびに現れるピークを検出します。このピーク同士の間隔(R-R間隔といいます)から、1分間に何回心臓が拍動しているか=心拍数(beats per minute: bpm)が分かります。たとえば、60秒の間に心臓が75回拍動していれば、心拍数は「75 bpm」です。
ただ、心臓はメトロノームのように常に正確に打っているわけではありません。例えば、心拍数が平均75 bpmでも、
・ある拍動から次の拍動までは「0.80秒」
・その次は「0.72秒」
・次は「0.85秒」・・・
というように、拍動の間隔は微妙に変化しています。この変動を「心拍変動(Heart Rate Variability」といいます。心拍の間隔がリズミカルに変化していることは、実は心臓が自律神経の調整を受けている健康な証拠でもあるのです。この心拍変動を数字で表す方法のひとつが、RMSSD(Root Mean Square of Successive Differences)です。
簡単に言うと・・・RMSSDは、連続する心拍間隔の変化の“ばらつき具合”を平均して計算したものです。拍動と拍動の間の時間(R-R間隔)を比べて、どれくらい“ゆらぎ”があるかを見る指標で、数値が大きいほどリラックスして副交感神経がよく働いている状態を示します。

さて、会議前の短時間瞑想の前後でRMSSDが上がれば副交感神経優位(≒心がととのった)のサインです。会議前の測り方の一例を以下に示します。
・椅子に浅く腰掛け、足の裏を床につけます。測定中は発話や身体の大きな動きは控えてください。
・瞑想“前”の60秒間 → 瞑想60秒間(6秒吐いて、4秒吸うのを繰り返します)→ 瞑想“後”の60秒間の計測を行い、瞑想前と瞑想後でRMSSDがどう変化したかをみます。
・瞑想前と比べて瞑想後にRMSSDが上がっていれば副交感神経優位になっています。ゆっくりした呼吸そのものが心拍変動を押し上げる面もあるため、瞑想前後の呼吸のペースはできるだけ揃えた上で測るのがよいでしょう。

心拍センサーは胸ストラップ型でも、手首型でも可能ですが、胸ストラップ型の方が精度が高いです。市販の胸ストラップ型心拍計でも、心拍変動(RMSSD)を算出できるアプリと連携することにより簡単に“ととのった心”を確かめることができます。

まとめ

会議前の「たった60秒」は、気持ちを無理に変える魔法ではなく、いまある高ぶりを静かに整えるための小さな余白です。姿勢を整え、吐く息を少し長めにして数呼吸、最後にひと言の意図を心の中でそっと決める——それだけで、会議中の声や思考が落ち着きやすくなります。必要に応じて心拍変動RMSSDの前後差で手応えを確かめることもできますが、まずは日々の会議の前に60秒の余白を置く習慣から。深く吸おうと頑張らず、自然に吐くを長めにすることを合言葉に、やさしく続けていきましょう。

センタンでは、脳波や心拍、皮膚電気活動などの生体情報の計測・解析から、ヒトの状態や影響などを深く知るサポートを行っています。研究・開発支援(受託研究)生体データの利活用支援など様々な課題解決のサポート実績がございますので、興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、どうぞお気軽にお問合せください。

引用文献

  1. Westenberg, R. F., Zale, E. L., Heinhuis, T. J., Özkan, S., Nazzal, A., Lee, S. G., … & Vranceanu, A. M. (2018). Does a brief mindfulness exercise improve outcomes in upper extremity patients? A randomized controlled trial. Clinical Orthopaedics and Related Research®, 476(4), 790-798.
  2. Obradović, J., Sulik, M. J., & Armstrong‐Carter, E. (2021). Taking a few deep breaths significantly reduces children’s physiological arousal in everyday settings: Results of a preregistered video intervention. Developmental Psychobiology, 63(8), e22214.
  3. Schwerdtfeger, A. R., Tatschl, J. M., & Rominger, C. (2025). Effectiveness of 2 Just-in-Time Adaptive Interventions for Reducing Stress and Stabilizing Cardiac Autonomic Function: Microrandomized Trials. Journal of Medical Internet Research, 27, e69582.
  4. Russo, M. A., Santarelli, D. M., & O’Rourke, D. (2017). The physiological effects of slow breathing in the healthy human. Breathe, 13(4), 298-309.
  5. Dickenson, J., Berkman, E. T., Arch, J., & Lieberman, M. D. (2013). Neural correlates of focused attention during a brief mindfulness induction. Social cognitive and affective neuroscience, 8(1), 40-47.
  6. Tang, Y. Y., Ma, Y., Fan, Y., Feng, H., Wang, J., Feng, S., … & Fan, M. (2009). Central and autonomic nervous system interaction is altered by short-term meditation. Proceedings of the national Academy of Sciences, 106(22), 8865-8870.
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