ノイズの効果:ノイズがパフォーマンスを向上させる?

ノイズの効果:ノイズがパフォーマンスを向上させる?

勉強や読書に集中したいとき、皆さんはどのような環境で行いたいでしょうか?できるだけ静かな環境の方が良いという方もいれば、カフェや図書館など少し騒音があるところの方が集中できるという人もいるのではないでしょうか?実はある程度、環境ノイズがあった方が、課題の成績が向上するという研究があります。今回はそのようなノイズの効果に関する研究をご紹介します。

ノイズと創造性

まずは、ノイズが創造性へ与える影響を調べた研究を紹介します(1)。創造性は遠隔連想テストという提示された複数の単語に共通する単語を回答してもらう課題で測定しました。
この課題を行う最中に、実際のカフェや道路沿い、工事現場などから記録したノイズを、低(50 dB)・中(70 dB)・高(85 dB)の音圧で被験者に聴かせました。またノイズを聴かせないコントロール条件もありました。結果は、中程度(70 dB)のノイズを聴かせた時に最も正答率が高くなりました。中程度以外の音圧の間では正答率の差はありませんでした。また気分のアンケートでは、ノイズの音圧による差はなかったので、音圧による気分の違いが課題の処理に影響しているわけではないようでした。著者によると、ノイズは認知処理を阻害し、その結果、抽象的な思考を促進し、最終的に創造性を向上させると考えられるそうです。ただし、ノイズの強度が強すぎると、処理容量自体が減少してしまい創造的な処理が弱められてしまうので、適度なノイズの強度の場合に最も創造性が高くなると解釈できるようです。
このような結果や解釈を応用すると、創作活動や仕事などで、創造性を高めたい場合は適度なノイズがある環境で作業を行うと良いかもしれません。カフェやファミレスなどで小説や文章などを書いている人は、経験的にこのような現象をわかっているのかもしれませんね。

ノイズと課題内容の関係

しかし、ノイズの様々な課題への影響を調べた研究では異なる結果も報告されています。実際の大学の講義室で実施された実験では、背景騒音が批判的思考・分析的思考・創造的思考に与える影響を調べました(2)。騒音のレベルは、講義室の窓や扉の開閉状態や、休み時間・授業中などに応じて3段階に分けられ、低い順からそれぞれ約45 dB, 52 dB, 70 dBの騒音レベルでした。計測環境が異なるので前述の研究と単純にdBによる比較は難しいですが、この研究の環境では2番目の52 dBが最も快適な環境と考えられました。結果は、創造的思考の成績が最も良かったのは最も静かな環境でした。一方、批判的思考の成績は、最も騒がしい環境で成績が最も良くなっていました。分析的思考は、騒音のレベルの影響はありませんでした。前述の研究と異なり、創造的思考は静かな方が良いことから、騒音の創造性への影響は状況に強く依存すると考えられます。また、批判的思考は逆に騒がしい方が良かったことから、課題に要求される思考方法によって騒音の影響の仕方は異なる可能性があります。

ノイズの良い影響

他にもノイズの影響を実験室で調べた研究(3)では、ホワイトノイズやニュースの音声といった課題に関係のない聴覚ノイズが視覚のワーキングメモリの課題の成績を向上させていました。同時に取得した筋電図や皮膚の発汗のデータから、成績が向上するのはノイズにより覚醒度が上昇したからと考えられました。
さらに、ジェット機のエンジン音(最大で95dB)を外部ノイズとして聞かせた場合に静かな場合よりも、視覚の課題の成績が良くなることも報告されました(4)。この実験では被験者の課題への没頭のアンケートは、ノイズがあった時の方が高くなっていました。ノイズは覚醒度や課題へののめり込みを高める効果がありそうなので、うまく用いることで高いパフォーマンスを得ることができるかもしれません。

ノイズの悪影響

ここまでで記載した研究ではノイズがパフォーマンスを向上させていましたが、ノイズがパフォーマンスを悪化させる研究も存在します。例えば、車の通過する際の騒音が読書のスピードや理解力を低下させたり(5)、話し声が視覚の短期記憶課題の成績を悪化させたり(6)します。
さらに、ノイズのパフォーマンスへの影響を調べた様々な研究結果をまとめて分析したメタアナリシスによると、基本的にノイズはパフォーマンスを悪化させるという結論も得られています(7)。特に課題の正確性を悪化させる影響が大きく、反応速度を低下させる影響はより小さいようでした。またノイズの音が大きい方が影響は大きく、ノイズのタイプ別では特にスピーチのノイズがパフォーマンスを悪化させるようでした。
このように、必ずしもノイズはパフォーマンスを向上させるとは言えないようです。どのような時にノイズが良い影響を与えるかは、さらなる研究が必要と考えられます。

ノイズの性質の影響

ノイズのパフォーマンスへの影響は、単にノイズの音圧だけでなく性質も影響しそうです。高周波成分が多くなると、音の鋭さ(sharpness)が高くなり、主観的にノイズがより荒く感じるようになります。ある研究(8)では、ノイズの音圧が低くても音の鋭さが高いと、ターゲットを追跡するといった視覚課題の成績が悪化していました。また、覚醒度を測る行動指標では、音の鋭さが高い場合に成績が悪化していたので、鋭い音が覚醒度を低下させ、課題を悪化させた可能性があります。パフォーマンスを向上する環境を作るには、音の周波数特性も気にする必要がありそうです。

まとめ

このようにノイズが課題の成績を向上させる研究結果はありますが、逆に悪化させる結果もあるので、ノイズがパフォーマンスに与える影響についてはノイズの種類や実施する課題に大きく依存していると考えられます。そのためパフォーマンス向上を狙って意図的にノイズを聞かせた場合、状況によってはパフォーマンスが悪化する可能性もあります。もしかすると結局は、本人が一番居心地の良い環境が最もパフォーマンスを発揮できるのかもしれません。カフェで集中して勉強できる人にとっては、その騒音が適しているのかもしれませんが、他の人が真似しても単にパフォーマンスが悪化する可能性があります。
勉強や読書、創作活動など様々な活動に対して、それぞれの場面で自分が最もパフォーマンスを発揮できるノイズ環境を見つけることができれば、日々の活動がより豊かになるかもしれません。

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引用文献

  1. Mehta, R., Zhu, R., & Cheema, A. (2012). Is noise always bad? Exploring the effects of ambient noise on creative cognition. Journal of Consumer Research, 39(4), 784-799.
  2. Atef, N., Mansour, Y., & Sabry, H. (2025). Impact of lecture hall’s background noise on undergraduates’ higher order thinking skills: A field study. Ain Shams Engineering Journal, 16(1), 103238.
  3. Han, S., Zhu, R., & Ku, Y. (2021). Background white noise and speech facilitate visual working memory. European Journal of Neuroscience, 54(7), 6487-6496.
  4. Helton, W. S., Matthews, G., & Warm, J. S. (2009). Stress state mediation between environmental variables and performance: The case of noise and vigilance. Acta psychologica, 130(3), 204-213.
  5. Lavandier, C., Regragui, M., Dedieu, R., Royer, C., & Can, A. (2022). Influence of road traffic noise peaks on reading task performance and disturbance in a laboratory context. Acta Acustica, 6, 3.
  6. Radun, J., Keränen, J., Alakoivu, R., Schiller, I. S., Schlittmeier, S. J., & Hongisto, V. (2025). How speech in acoustically different offices influences a working person?–Experiments in two countries. Building and Environment, 267, 112262.
  7. Szalma, J. L., & Hancock, P. A. (2011). Noise effects on human performance: a meta-analytic synthesis. Psychological bulletin, 137(4), 682.
  8. Yang, C., Pang, L., Liang, J., Cao, X., Fan, Y., & Zhang, J. (2022). Experimental Investigation of Task Performance and Human Vigilance in Different Noise Environments. Applied Sciences, 12(22), 11376.
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