ワークエンゲージメント:いきいきわくわく働いていますか?

ワークエンゲージメント:いきいきわくわく働いていますか?

みなさんは、いきいきわくわく仕事をしていますか?毎日が挑戦であり、充実感に満ちていると感じているでしょうか?働く人が仕事に対してどれだけ意欲的であり、積極的に取り組むかは、その人の生産性や幸福度に大きな影響を与えます。では、どうすれば仕事に没頭し、最大限のパフォーマンスを発揮できるのでしょうか?
心理学や脳科学などさまざまな領域の研究によって、私たちの働き方やモチベーションに関する理解が深まりつつあります。今回は、それらの科学的エビデンスを基に、働く人のいきいきわくわく感、つまりワークエンゲージメントを理解し、高める方法について探ってみたいと思います。

ワークエンゲージメントとは?

ワークエンゲージメントは、働く人が、仕事に対して持つ積極的な態度や情熱を指します。具体的には、以下の3つの要素から成り立っています(1)。
・熱意:仕事に対する強い目的意識を持ち、仕事に誇りを感じている状態です。
・没頭:仕事に深くのめり込んで、時間を忘れるほどに集中して取り組んでいる状態です。
・活力:仕事に対する高いエネルギーと心理的な回復力を持ち、困難な状況にも粘り強く取り組んでいる状態です。
これらの要素の度合いが高い人は、自分の仕事に対して高いモチベーションを持ち、仕事を楽しむ傾向があります。そのため、仕事に対する満足感や達成感を強く感じることができ、結果として生産性が向上します。また、心理学的な研究で、このような人は、職場でのストレス管理能力も高く、メンタルヘルスも向上することが報告されています(2)。さらには、ワークエンゲージメントが高い人は、他のメンバーに対してもポジティブな影響を与え、チーム全体の士気を高める役割を果たします(3)。

ワークエンゲージメントと脳の働き

ワークエンゲージメントを脳科学の観点から見てみましょう。ワークエンゲージメントは脳の中の「報酬システム」と密接に関連していると考えられます。報酬システムとは、ドーパミンという神経伝達物質が関与する脳内システムで、満足感や達成感を感じる際に活性化します(4)。ここで言う報酬とは、給料のようなお金だけでなく、誰かに褒められたり(5)、課題をやり遂げたり(6)することで、うれしいと感じる状態も当てはまります。これまでの研究で、ワークエンゲージメントの高い人は、報酬の感受性が高いことが示されています(7)。このことからは、仕事で褒められたり、目標を達成することによって、しっかりと喜びを感じることが重要であることが分かります。

また、ワークエンゲージメントの没頭、つまり、仕事に対する深い集中状態は、前頭前野の活動と密接に関連しています。前頭前野は何かを決めたり、計画を立てたり、何かに集中することに関与する脳の領域です(8)。仕事に集中して取り組む際には前頭前野の活動が増加し、これにより複雑な問題を解決したり、創造的なアイデアを考える働きが促進されます。前頭前野の活発な活動が、仕事をする時の高いワークエンゲージメントを支える基盤となっているのです。

ワークエンゲージメントを高める方法

では、ワークエンゲージメントを高めるにはどうすればよいのでしょうか?ここでは、心理学や脳科学などさまざまな研究の知見に基づくいくつかの方法を紹介します。

1. 明確な目標設定とフィードバック
ワークエンゲージメントの要素の1つである「熱意」は仕事に対する強い目標意識を持った状態のことですが、具体的な目標を設定することは働き方の方向性を明確にし、働く人の動機づけを高めます。目標設定理論で有名な心理学者のエドウィン・ロックとゲイリー・レイサムは、明確で具体的な目標を設定し、目標の達成に向けたフィードバックを適切なタイミングで受け取ることが、働くモチベーションを高めるのに最も効果的であると述べています(9)。明確な目標が設定された職場は、従業員のワークエンゲージメントを高めます(10)。また、上司と部下の間で定期的にフィードバックのためのミーティングを行い、目標の進捗を確認し合うことで、従業員は自分の仕事を理解し、高い目的意識を持つことができます。つまり、働くことに対する「熱意」を持つことに繋がります。

2.マインドフルネス
ワークエンゲージメントを高めるには、マインドフルネスの実践も有効です。マインドフルネスは、今この瞬間に意識を集中し、心を落ち着ける技術です。具体的には、過去のことや未来のことにとらわれず、現在の自分の状態や感情に注意を向けます。研究では、マインドフルネスを実践することで、脳の前頭前野の活動が増加し、集中力が高まることや、感情のコントロールが向上し、仕事への満足度が高まることなどが示されています(11,12)。最近では、多くの企業で、マインドフルネスプログラムが取り入れられていますが、従業員の「没頭」の度合いや頻度が高まり、ワークエンゲージメントが向上することが期待できます。

3.報酬の適切な活用
脳のお話のところで出てきた「報酬」もワークエンゲージメントの向上には重要です。仕事の成果が正当に評価され、適切な報酬が与えられることで、従業員は自分の努力が認められていると感じ、さらなるエンゲージメントを引き出すことができます。モチベーション研究で有名なエドワード・デシの自己決定理論に基づくと、外から与えられる報酬として、定期的な表彰やインセンティブ制度を導入することで、従業員のモチベーションを維持し、高いパフォーマンスを促進することが可能です(13,14)。 一方で、仕事のやり方やスケジュールを自分で決める権限を持つことや、自分の知識やスキルを向上させる機会を持つことで、仕事について自分自身で感じる興味や楽しさなどの報酬の感受性を高めることも、ワークエンゲージメントを高めるためには有効です。

まとめ

働く人にとって、ワークエンゲージメントは、個人の生産性や幸福感に直結する重要な要素です。科学的アプローチによって、ワークエンゲージメントとは何なのか?どのようにすれば高められるのか?といった問いに答えるための研究が今なお進みつつあります。私たちみんながいきいきわくわく働くためのよりよい方法がきっと見つかっていくことでしょう。

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引用文献

  1. Schaufeli, W. B., & Bakker, A. B. (2004). Job demands, job resources, and their relationship with burnout and engagement: A multi‐sample study. Journal of Organizational Behavior: The International Journal of Industrial, Occupational and Organizational Psychology and Behavior, 25(3), 293-315.
  2. Hakanen, J. J., & Schaufeli, W. B. (2012). Do burnout and work engagement predict depressive symptoms and life satisfaction? A three-wave seven-year prospective study. Journal of affective disorders, 141(2-3), 415-424.
  3. Bakker, A. B., Schaufeli, W. B., Leiter, M. P., & Taris, T. W. (2008). Work engagement: An emerging concept in occupational health psychology. Work & stress, 22(3), 187-200.
  4. Knutson, B., Adams, C. M., Fong, G. W., & Hommer, D. (2001). Anticipation of increasing monetary reward selectively recruits nucleus accumbens. The Journal of neuroscience, 21(16), RC159.
  5. Izuma, K., Saito, D. N., & Sadato, N. (2008). Processing of social and monetary rewards in the human striatum. Neuron, 58(2), 284-294.
  6. Nakai, T., Nakatani, H., Hosoda, C., Nonaka, Y., & Okanoya, K. (2017). Sense of accomplishment is modulated by a proper level of instruction and represented in the brain reward system. Plos one, 12(1), e0168661.
  7. van Beek, I. (2014). Understanding the dark and bright sides of heavy work investment: Psychological studies on workaholism and work engagement (Doctoral dissertation, Utrecht University).
  8. Miller, E. K., & Cohen, J. D. (2001). An integrative theory of prefrontal cortex function. Annual review of neuroscience, 24(1), 167-202.
  9. Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American psychologist, 57(9), 705.
  10. Bakker, A. B., & Demerouti, E. (2007). The job demands‐resources model: State of the art. Journal of managerial psychology, 22(3), 309-328.
  11. Wheeler, M. S., Arnkoff, D. B., & Glass, C. R. (2017). The neuroscience of mindfulness: How mindfulness alters the brain and facilitates emotion regulation. Mindfulness, 8, 1471-1487.
  12. Hülsheger, U. R., Alberts, H. J., Feinholdt, A., & Lang, J. W. (2013). Benefits of mindfulness at work: the role of mindfulness in emotion regulation, emotional exhaustion, and job satisfaction. Journal of applied psychology, 98(2), 310.
  13. Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). The” what” and” why” of goal pursuits: Human needs and the self-determination of behavior. Psychological inquiry, 11(4), 227-268.
  14. Gagné, M., & Deci, E. L. (2005). Self‐determination theory and work motivation. Journal of Organizational behavior, 26(4), 331-362.
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