2024.06.24

職場の心理学[2]:内集団と信頼

職場の心理学[2]:内集団と信頼

社会心理学の先行研究によると、「信頼」と「ひいき」は繋がっています。人は自分と同じグループに所属する人間(内集団のメンバー)をより信頼し、ひいきをする傾向があります。職場では、部署以外に、同じ大学出身、同期入社など、様々な理由で人の集団が形成されています。それは人間社会においてごく自然な現象ですが、公正かつ公平に管理・運営され、上司・部下・同僚間での信頼関係が厚い職場環境を作るために、内集団はどうやってできたか、人はなぜ他人を「信頼する」という行動を取るかについて理解しておく必要があります(1)。

内集団・外集団とは

内集団(ingroup)と外集団(outgroup)とは、アメリカの社会学者W・G・サムナーの用いたことばです。内集団は、個人が自分と他人を同一視し、所属感を抱いている集団で、それに対して外集団は、「他者」と感じる集団で、競争心、対立感、敵意などを差し向ける対象です(2)。
内集団・外集団は社会的カテゴリー化(social categorization)で形成されています。社会的カテゴリー化とは、狭義には、特に人々を何かしらの特徴を基準に振り分けて、一つのまとまりに括る認知作用です。社会的カテゴリー化は「我々」と「彼ら」という自分がそこに含まれている内集団と含まれない外集団を生み出します(1)。

社会的カテゴリー化において振り分ける基準とは、通常は性別、血縁関係、出身地や居住地の他に、スポーツチームや政党への所属または支持、宗教の信仰、国籍などをさしますが、Tajfe1らの最小集団(minimal group)実験により、くじびきの結果(赤か青か)が同じなどのささいなことでさえ社会的カテゴリー化を促進できると発見されました(3)。

社会的カテゴリー化

信頼とは

私たちの生活は、言葉を通じて気持ちや情報を伝え、家族や仲間との行動で助け合い、お金を支払い、商品を手に入れる買い物など、さまざまな有形または無形のものや出来事の交換によって成り立っています。時に、相手に関する情報が必要とされながらその情報が不足している場合があります。例えば、ヒッチハイクをするとき、運転手と旅行者は互いの情報についてほぼ知りません。自分を裏切る誘因が相手に存在し、さらにその相手が裏切るかどうかの意図に関する情報が不足している状況は、社会的不確実性が存在している状態といいます(4)。その社会的不確実性を解消するには、二つの方法があります。

一つ目は、時間をかけて特定の相手との間に安定した親密な関係を作り、社会的不確実性そのものの存在を客観的に取り去る方法です。そしてもう一つは、相手が善良であると仮定した上で相手を信頼し、主観的に社会的不確実性を下げる方法です(5)。
Rotter(1967)は、信頼を「他人の言葉や約束、口頭または書面で表明したことを信じる信念」と定義しました(6)。そして、社会心理学の先行研究(山岸・小見山, 1995)(7)では、信頼を:人間は一般的に善良であるという信念(belief in human benevolence)を持ち、不特定な他者を信頼する「一般的信頼」と、固定された関係の中にある特定の対象(個人や会社など)を信頼する「個別的信頼」に区別しています。

信頼と内集団ひいき

昔から、社会心理学の実験と調査で、内集団を外集団よりも好意的に評価・処遇するという現象がよく報告されています。心理学者はこの現象を「内集団ひいき」もしくは「内集団バイアス」と呼びます(8)。内集団のメンバーにひいきをする理由は、集団に対する所属感を強化したい(2)、内集団の中で地位が低い人間は外集団の人間を差別することで自分の自尊心を取り戻したい(9)、より多くの集団内共有のリソース(情報、資金、物資、人間関係など)を獲得したい(10)などが挙げられています。

職場という小さな社会の中でも、情報や物資など様々な交換が発生します。大体の場面ではその交換は固定された相手との間で行い、社内ルールや法律などに規制されています。一方で、新しい商談相手と会うとき、新人が配属されるとき、他の部署・子会社に転属されるときなど、相手の情報をあまり知らない「社会的不確実性」がある場面もあります。そこでは人は、前述のように出身大学や国籍、宗教など、実際に業務と無関係なもので相手を信頼してしまう可能性があります。それが原因で不適切な商売相手を選んでしまう、または不公平に部下に業務を配分する、不適切に従業員を評価するなど、様々なトラブルを引き起こすリスクがあります。

「内集団ひいき」は人間性の一部で悪いことではありませんが、仕事をする際に「自分も内集団ひいきをする」ということを認識し、客観的に判断するのが重要です。また、一般的信頼にあたる「人間は基本的に善良で信頼できる」という信念を持って、平等に他人に接する人は、個別的信頼にあたる「身内しか信頼しない」人より、ビジネス社会に適応していると言えます。それは、法律やルールが守られている社会では、一般的に他人を信頼する人は、誰も信じない人や身内しか信用しない人と比べ、新しい人間関係を作り、新しいチャンスを生み出す可能性が高いからと考えられます。
職場においては「内集団ひいき」を防ぐという意味で、「個別的信頼」より「一般的信頼」の方が重要な素質になるといえるでしょう。そして、様々な人を「内集団」と「外集団」に分別する基準の中で、「性別/ジェンダー」が一つ重要な基準としてあります。古くから人は自分と他人を「男性/女性」と認識し、適切な行動を取ろうとしています。次回のコラム「職場の心理学[3]:職場のジェンダー」はこのテーマについてお伝えしていきます。

引用文献

  1. 柿本 敏克, 内集団バイアスに影響を及ぼす個人差要因, 社会心理学研究, 1995, 11 巻, 2 号, p. 94-104.
  2. Sumner, W. G., 青柳清孝, 園田恭一, & 山本英治. (2005). フォークウェイズ (復刻版, Issue 3). 青木書店.
  3. Tajfe1, H., Bi11ig. M. G., Bundy, R. P., & Flament, C., l 971, Social categorization and
    intergroup behavior. European Journa1 of Social Psychology, 1, 149-178.
  4. 山岸 俊男, 渡部 幹, 林 直保子, 高橋 伸幸, 山岸 みどり, 社会的不確実性のもとでの信頼とコミットメント, 社会心理学研究, 1995, 11 巻, 3 号, p. 206-216.
  5. Robert Axelrod, (1984) The Evolution of Cooperation. New York: Basic Books.
  6. Rotter, J. 1967 A new scale for the measurement of interpersonal trust. Journal of Personality, 35, 651- 665.
  7. 山岸 俊男, 山岸 みどり, 高橋 伸幸, 林 直保子, 渡部 幹, 信頼とコミットメント形成, 実験社会心理学研究, 1995-1996, 35 巻, 1 号, p. 23-34.
  8. Messick, D. M. & Mackie, D.M., l 989, Intergroup relations. Annual Review of Psycho1ogy, 40, 45- 81.
  9. 杉浦 仁美, 坂田 桐子, 清水 裕士, 集団間と集団内の地位が内・外集団の評価に及ぼす影響―集団間関係の調整効果に着目して―, 実験社会心理学研究, 2014-2015, 54 巻, 2 号, p. 101-111.
  10. Yamagishi, Toshio & Kiyonari, Toko. (2000). The Group as the Container of Generalized Reciprocity. Social Psychology Quarterly. 63. 116-132.
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